404 NOT FOUND | 腎臓内科.com https://xn--v6q559gj6ehpa.com 赤羽もり内科・腎臓内科の院長のページです。 Fri, 14 May 2021 12:23:13 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.7.11 【医師が教える】腎臓が悪いと言われたらまず読んでほしい記事 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/2592 Sun, 05 Jul 2020 07:07:36 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=2592 初めまして、赤羽もり内科・腎臓内科という透析予防のクリニックで院長をしている森 維久郎(もり いくろう)です。

この記事は、健康診断などで腎臓が悪いと言われ、慌ててネットで腎臓について調べてみたけど、なんかよく分からないなぁという方に向けた記事です。

腎臓という臓器は、非常に複雑な臓器で一つ一つを掘って説明すると全体像が見えなくなり、よく分からなくなります。

この記事では、まずにサクッと一周して説明します。分からないところがあっても気にせずに、一通り読んでみてください。

腎臓ってなに?

まず、腎臓ってなんですか?という所からいきましょう。

腎臓は背中に2つある握りこぶし程度の大きさの臓器です。(意外と小さいですよね・・・)

腎臓の一番大切な働きは、ずばり「汚いものを捨て、必要なものをとどめておく」です。

身体中を巡った血液が腎臓に辿り着き、キレイな状態となってまた再び身体中に戻るのですが、なんと1日に約150Lもの血液をきれいにしています。

腎臓は「汚いものを捨て、必要なものをとどめておく」という役割以外にも、多種多様な働きをします。あまりにも多種多様なため、NHKの特集などでは「人体ネットワークの要」と呼ばれていました。

以下に例を羅列してみます。

・血液を作る。
・筋肉・骨を作る。
・ミネラルの調整をする。
・血圧の調整をする。
・他の臓器との調整をする。(心臓、腸、肝臓など)

これ以外にも、色々な役割があります。握りこぶし程度の大きさの臓器でこれだけのことが行われているなんて神秘的ですよね。

腎臓が悪くなると起きる症状

腎臓が悪くなると、腎臓が担っていた仕事ができなくなり、さまざまな問題が起きます。

下に例を示します。

  • 毒素を処理する毒素がたまり、だるくなる
  • 血液を作る貧血になる
  • 筋肉・骨を作る筋肉・骨が衰える
  • 血圧の調整をする高血圧になる

ただし、症状としてでてくるのは、進行して重症になってからであり、初期の段階で全く症状がありません。

健康診断で異常を指摘されたけど、症状がないので放置した結果透析になってしまう患者さんは残念ながら結構います。

症状が出たときからだとかなり病気が進行しています。そのため早めの受診が必要です。

腎臓病の原因

腎臓病になる原因は、多岐に渡りますが大まかに2パターンあります。

生活習慣病が原因

日本で透析になる患者さんの7割程度が生活習慣病が原因と言われています。具体的には、以下のような原因が考えられます。

・糖尿病
・高血圧
・肥満
・タバコ など

免疫や遺伝の病気が原因

残りの3割程度が生活習慣以外の免疫や遺伝の病気が原因になります。

具体的には以下のような病気が当てはまります。

・IgA腎症
・多発性嚢胞腎
・ネフローゼ症候群 など

あなたの腎臓を壊しているのがどの原因かを見極めて、治療をする必要があります

多いのは生活習慣病ですが、見逃せない病気が隠れていることもあります。

腎臓が悪いと言われた行う検査

腎臓に何か異常がある可能性がある時は、検査に進みます。

まずやる検査は以下の3つです。

・採血検査
・採尿検査
・画像検査

採血検査・採尿検査

腎臓は悪くなってもあまり症状が出ないので、どのくらい腎臓が悪いかを調べるには、採血検査と採尿検査が唯一の手がかりです。

特に「eGFR」、「尿タンパク」は腎臓の状態をみる重要な検査項目です。

ネットをみると色々書いてあるのですが、とりあえず他は後で良いのでこの2つだけはおさえてください。

「eGFR」と「尿タンパク」が大切。

この「eGFR」と「尿タンパク」は医学的に正しく説明すると長くなるので、敢えて思い切ってざっくり説明すると「eGFR」は「腎臓の点数(=現在の状態)」「尿タンパク」は「腎臓のSOS(=未来の状態)」です

eGFR

eGFRで若い健康な人の腎臓を100点とした時に、何点かを示しています。(厳密には違いますが、簡略化します。)

この点数で重症度を良い方からステージ1から5の5段階に分けます。

(画像変更)

ステージ3を越えると腎臓病の診断になります。

eGFRが30を切るとステージG4、eGFRが15を切るとステージG5になります。

eGFRが10を切ると透析が必要になります。

健康診断の結果を受けて、もう1度eGFRを測定するのと、場合によっては特別な採血項目を使用してeGFRを違う角度から測定します。

尿タンパク

尿タンパクは、将来的に腎臓がどのくらいのスピードで悪くなっていくかを調べます。

健康診断などで行われる尿タンパクの検査は、「−」、「±」、「1+」、「2+」、「3+」の5段階に分かれます。

まず、「2+」、「3+」であったら必ず精密な尿検査を受けることをおすすめします。

健康診断の結果を受けて、尿タンパクの量を詳しく調べる定量検査という検査を行います。

画像検査

採血検査・採尿検査以外に腎臓の形を評価することで腎臓の評価をすることが可能です。

例えば、腎臓が小さく、ゴツゴツしていたら動脈硬化による腎臓の病気の可能性が高いです。

とくに超音波を使った検査は、被爆もなく、痛みもないのでよく最初に行われます。

あくまで補助的に行われる検査です。

情報が多すぎると迷ってしまうので、シンプルに「eGFR」、「尿タンパク」が大切と考えてください。

さいごに

最後にメッセージとしては、腎臓が悪いと言われたら一度で良いので専門的な検査を受けることをおすすめします。

特に腎臓は、あまり症状が出ないので放置してしまい、結果透析になってしまう患者さんが多いです。

この記事が医療機関に受診するきっかけに少しでもなればと思います。

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人工知能時代に『現場が最強』になる理由。 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/665 Sat, 05 May 2018 04:26:08 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=665 腎臓内科医 森 維久郎です。『人工知能で医者が要らなくなる』と言われ始め、医療関係者としても無視出来ない存在になってきました。中には医者をやめて人工知能のエンジニアになったりベンチャー企業に勤める医者も増えてきました。私自身も医者も変化を続けなくていけないと思っていましたし、今も思っています。自分自身でGoogle Homeを使った医療アプリを作ったりして、あくまで変化の最先端にいたいと思っています。

一方で、人工知能時代こそ『現場が最強だ』という結論に最近落ち着きました。今日は何故、人工知能時代こそ『現場の医療者であり続ける事が最強だ』と思ったかについて書きたいと思います。まず下のグラフがこの記事の全てだと思って下さい。

これは私の仕事仲間である薬剤師兼エンジニアの方から頂いた概念です。左から順番に『データ』『学習モデル』『UI』『UX』という言葉が並んでいます。『データ』『学習モデル』というのはなんとなく分かると思いますが、『UI』『UX』という言葉は馴染みが無いと思いますのでまず触れたいと思います。

UI:ユーザーインターフェイスとは?

UI:User Interface(ユーザーインターフェース)の略です。

UIは二つの物(人間、機械でもなんでも良い)間で情報をやり取りするときの方法を指します。ざっくり、情報伝達の手段みたいなイメージで、人間同士であれば、絵文字、スタンプもUIと思って良いと思います。(正確にはちょっと違いますww)

一般的に、そしてこの記事では、『人間』と『機械』のやり取りを指します。例えば、マウスでクリックするとフォルダが開くようという行程は、『クリック』という手段で、『人間』が『機械』にフォルダを開いてと指示している訳です。Iphoneで言うと指で画面を拡大したり、スワイプしたりする行程は『指』という手段で『人間』が『機械』に動作を指示しています。

このUIは日々進化しています。昔はプログラマーのような限られた人が文字列を打ち込まないと機械に指示を出せなかったのが、『指』で指示が出せるようになり、最近はGoogle Homeのような機械に『声』で指示を出せるようになりました。

UX:ユーザーエクスペリエンスとは?

一方でUX:User Experience(ユーザーエクスペリエンス)の略です。

UXは利用者が『使いやすい』とか『楽しい』とか『便利だ』とか思う体験であり、文字通りユーザーエクスペリエンス、ユーザー体験です。

例えば、スターバックスに行くと、お金を払って、コーヒーを飲むだけでなく、なんとなく心地よかったり、なんとなく店員さんの笑顔が爽やかでこっちまで爽やかになるみたいな体験がUXです。(勝手に話作りましたww)

このUXは、ユーザーの特性、時代の流行り廃りなどで大きく変化を求められます。UIは『進化』していきますが、UXは『変化』していくものと個人的には思っています。

『学習モデル』と『UI』には既に価値がない

さて話は大きく逸れましたが、Google、Amazonのようなグローバル企業は『学習モデル』と『UI』を進化させていきました。例えば、google翻訳は5年前に比べて格段に精度を上げてきています。Siriもある程度の事なら理解して、返事を用意してくれます。最近で、『指』だけでなく、『声』でも機械に指示を出せるようになりました。

一昔前には、一部の限られたプログラマーしかありつけなかった、これらの技術の恩恵が一般市民の手にまで届くようになりました。しかも、勉強せずに簡単で、直感的に使えるようになりました。この進歩はドンドン加速する事が予想されます。

同時に、『学習モデル』と『UI』の独自性は一気に下がっていきます。この領域は、Google、Amazon達に勝手にやらせておけば良いのです。個人的には2030年頃には、Excelを使うくらいのリテラシーがあれば人工知能も弄れるような時代になると思います。

『データー』と『UX』に価値がある!

一方で、『データー』と『UX』には価値が残り続けると思っています。

データー作成には想像以上の手間、知識、現場感が必要

『データー』に関しては、表層の知識だけで『ビックデーター』とか『クラウドコンピューティング』というバズワードを出してくる人がいますが、この『データー』を人工知能の学習データーに組み込むには、地道な努力と技術が必要です。

イメージとしては、臨床研究をした事がある医者なら分かると思うのですが、解析をするまでのデーターを抽出して綺麗にするクリーニングという作業があります。実はこのクリーニングに相当な時間を費やします。『このデーターは適切なのか』『このデーターは解析に必要なのか』『このデーターは本当にMECEなのか?』『解析するためどうやってデーターを作っていくのか』などなど一つ一つ丁寧 に分析していきます。

人工知能を使ったアプリケーションを作る際もデーター作成には地道な作業が必要です。例えば、今回自分で作ったアプリケーションでは、様々な参考書で薬の投与量を調べました。一例が下記のCKD診療ガイド2012の表です。

まず最初にPDFファイルをExcelにしなくてはなりません。ソフトを使ってやってはみるものの、時折ミスがあるため、最終的にはランサーズで人を雇ってExcel形式にしてもらいました。また薬の名前に関しても、ジェネリックがあったり、通称みたいな呼び名があったりします。これらを全て、登録していく作業があります。薬によっては参考書によって投与量が違う事もあり、実際の現場で使われている投与量に変更したりします。

本当に地道なのですが、ある程度のバックグラウンドを持った現場の人間にしか出来ない事です。

まとめると、データー作成には『データー収集』、『データー整理』があり、現場の人間がアクセスしている『データー』になんとかしてアクセス出来ても、それ現場の人間の使用している形にして、人工知能に組み入れるには想像以上の手間とバックグラウンド、知識、現場感が必要になります。

『UX』はユーザーにしか分からない

UXに関しては、シンプルです。自分自身がユーザーであることが最大に強みです。取り敢えずどれだけ売れなくても、自分が使いたい物を作れば良いのです。ニーズ調査なんて要りません。

『自分が使いたい物を作れ、それが皆の使いたい物だ』

現場の人間は、困っている事、面倒な事の隅々まで日頃から体感しているので、解決すべき問題が常にクリアです。実際使ってみて、修正をかけてのトライアンドエラーのサイクルがグルグル回っていきます。修正すべき問題もクリアです。

『欲しい』という感覚にこそ最大の価値があります。

結局現場が最強になる。

このグラフも三度目の誕生です。結局両端の『データー』と『UX』に独自性があり、価値があります。

『学習モデル』と『UI』をGoogle、Amazonなどがドンドン発達させて、テクノロジーが整った未来では、個人が欲しい物を作っていく時代になります。すると、大切になるのは『欲しい』という感覚と現場感です。

日常の診療で患者さんを診て、『この人にこんなプロダクトがあればもっと良くなるのに』とか、日常の業務に疲れ切り『こんなプロダクトがあったらもっと楽になるのに』と思う事に価値が残ります。

時代の流れと共に、医療の課題は『変化』していきます。常に『変化』を最前線で見つめ続けて、『進化』したテクノロジーを使って問題を解決していく医療者が最強なのではないかと最近思っています。

自己紹介
腎臓内科.comの管理人「腎臓内科医:森 維久郎」の自己紹介です。
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腎臓とリンについて  https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/171 Sat, 09 Mar 2019 00:33:38 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=171 腎臓内科医森です。今日は、腎臓とリンについてまとめました。実はこの「リン」という検査項目は腎臓内科以外では注目されておらず、自分が腎臓内科医になる前は採血で全く評価していませんでした。リンはここ10-20年くらいで注目されており、腎臓病においてリンをコントロールする事は死亡率に関わり大事なためこの記事でまとめました。

高リン血症とは?

腎臓は身体のミネラルを調整する働きがあり、腎臓病の患者さんはこのミネラルの調整機能が崩れてしまうため定期的に評価する必要があります。リンもミネラルの一種に相当して、腎臓病が進行するとリンが腎臓から排泄されず溜まり、高リン血症(こうりんけっしょう)の状態となります。

高リン血症は、骨折、血管の壁の石灰化に影響します。結果、心筋梗塞・脳梗塞のリスクを上げ、死亡率を上げ、腎臓病の進行にも影響すると言われています。

腎臓病でリンが上がる理由。

メカニズムに関しては、研修医の先生でも理解が難しいので患者さんとしては色んな臓器が関係しているんだなくらいの理解で問題ありません。腎臓病における身体のミネラルの調整は、主に腸管・骨・腎臓で行っています。まず腎臓が悪くなると、身体からリンを出す事が出来なくなります。

同時に腸管からのカルシウムを吸収するメカニズムに関わるビタミンDを作る事が出来なくなり、血液中のカルシウムが不足します。カルシウムを補うために骨を溶かして補おうとするのですが、同時にリンも一緒に溶けてしまい、更に身体にリンが溜まります。

このカルシウムが足りなくて、リンが溜まっている状態をなんとかしようとして副甲状腺(ふくこうじょうせん)という首周りの臓器が働いて調整を行います。

このメカニズムを経て、骨折・副甲状腺機能亢進症・血管の石灰化が起きると言われています。

リンを下げるために

「リン」を下げる方法は二種類あって、食事制限と内服加療です。

食事制限

肉類や魚類・卵類・牛乳などのタンパク質に多く含まれていると言われています。また食品添加物にも多く含まれています。ここでポイントになるのが、高リン血症に関わる食品とそうでない食品がある事です。

栄養指導をする際に、一律タンパク制限を指導してしまう事が多いのですが、腎臓病の患者さんは塩分制限・時には野菜・果物制限されている事が多く、結局何を食べたら良いか分からなくなります。また腎臓病の患者さんは高齢者が多く、過度な食事制限で筋力が落ちたり、衰弱してしまう可能性があります。

リンには二種類あり、「有機リン」と「無機リン」があります。「無機リン」は「有機リン」に比べて腸管で吸収が良く、身体のリンの値を上げてしまいます。ハム・ソーセージ・缶詰・清涼飲料水に含まれている食品添加物に多く含まれており、注意が必要です。

一方で、肉類・魚類などに含まれる「有機リン」は半分程度しか腸管で吸収されないため「無機リン」に比べると食事制限の優先順位は落ちます。個人的な治療方針としては、患者さんによって個人差もありますが、食べ過ぎるのは良くない程度に伝えています。

内服加療

食事療法でコントロールが難しい場合は、薬を使用します。薬の名前としては、ビタミンD製剤、ホスブロック、キックリン、レナジェル、リオナ、カルタン、ホスレノール、ピートル、レグパラなどがあります。

これらの薬の使い分けについて細かく書くとキリがありませんが、嘔気や下痢の消化器症状が起きるため適宜薬を変更します。また、リンを下げるだけでなく、鉄分を補充したいときにはリオナなどを使用します。

これらの薬剤を使用する際に、「リン(P)」だけでなく「カルシウム(Ca)」や「intact-PTH」という値を評価して全身のリンに関わる臓器について評価をします。

プラスアルファで運動療法

腎臓病に対して、運動療法の重要性が注目されており、腎臓リハビリテーションという概念が誕生しました。日常的な有酸素運動・筋力トレーニングを行う事で死亡率・腎臓の障害を抑える事が出来ると言われています。

また、タンパク制限によって生じる筋力低下を防ぐ事が出来るとも言われています。透析の患者さんでは、運動療法でリンの値をコントロールする事が出来ると言われており、食事制限・内服療法に加えて積極的に運動療法を勧めています。

リンを下げる優先度はどの程度?

ここまで、腎臓病とリンについてまとめました。個人的な考え方としては、腎臓病の患者におけるリンの重要性は比較的高くないと考えています。「血圧」・「減塩」・「運動」が最重要事項で、加えて糖尿病の方は「血糖」、高コレステロールの方は「コレステロール」をしっかりコントロールする事が先決です。

更に定期的な運動としっかりとした食事摂取・カロリー摂取をして筋力がしっかり保たれている若い方でさらなるステップアップとして異常値があれば治療する程度です。

腎臓病とリンについては様々な研究がされていますが、科学的根拠が非常に高くて、これは明らかにリンを最重要事項として治療をした方が良いという結果はまだ無いと思います。2018年の腎臓病のガイドラインにも比較的に控え目な記載になっています。

ガイドラインを縦読みしただけ、診療に優先順位をつけずに教科書通りにしか治療しない医療関係者だとリンの値をみて、「タンパク制限!」「内服開始!」という介入してしまいがちになります。

結果、筋力低下がある患者さんにタンパク制限をしてしまったり、血圧が高くて塩分制限が全く出来ていない患者さんがタンパク制限ばかり気にしていているという現状をよく目にします。腎臓内科.comでは重要性に緩急をつけて、情報提供を取捨選択する事を大切にしています。

 

今日のまとめ

1:腎臓病では様々な臓器が関わり高リン血症が起きる。

2:高リン血症は、骨折、死亡リスクに繋がるため食事療法・内服療法を行う。

3:ただし、重要性・優先順位に関しては、血圧・塩分・運動に比べると大きく劣るので時には治療しない事もある。

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尿酸値が高い事で腎臓が悪くなる? https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/163 Sat, 21 Oct 2017 04:48:21 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=163 2017年に書かれた記事で、2018年にアップデートされた内容の記事があるのでご参照下さい。

腎臓病では本当に尿酸値を下げる必要があるのか?【2020年6月更新】
尿酸値が高いと腎臓を障害する可能性があり、腎臓病では尿酸値を下げた方が良いと言われていました。しかしここ数年、尿酸値はあまり下げる必要はないのではないかという趣旨の報告が出てきており、この記事で腎臓と尿酸についてまとめました。

 

尿酸というと、痛風をイメージされる方が多いと思いますが、実は尿酸は腎臓を障害することが最近分かってきましたので、そちらに触れたいと思います。

 

尿酸は基本的に体内から作られるパターンと食べ物から摂取するパターンがあり、具体的には、肥満、ストレス、激しい運動、暴飲暴食で体内から作られて、食事としては干魚、レバー、卵、脂肪などに多く含まれています。

上記に書いてあるように、意外と食べ物から直接体内に作られるよりも、体内で合成される量が多いと言われています。肥満であったり、ストレスだったり、一瞬一瞬の食事摂取より、患者さんの長期的な生活が反映されると言われています。詳しくは『尿酸を下げよう.com』というサイトが見やすく書かれているので貼っておきます。( http://243sageyo.com/ )

 

腎臓の機能が下がると尿中に尿酸が排泄出来なくて血中の尿酸値が高くなると言われています。更に、元々腎臓が悪くなる背景として高血圧、糖尿病を有している事が多く、生活習慣が比較的安定していないため、尿酸値をしっかりコントロールする事が重要視されております。

 

近年腎臓内科領域では、尿酸が高いと腎機能が悪くなる可能性があるのではないと言われており、下記のような研究も出ております。

(CKD診療ガイド2012)

上記は、尿酸値が男性で7.0以上、女性で6.0以上とそれ以下の方で、末期腎不全になる確率を比較した結果です。この結果だけで、尿酸そのものが腎障害を起こす根拠にはなりませんが、事実として尿酸が高い患者さんは要注意という事には代わりがないという解釈が出来ます。高血圧が原因の腎障害、腎硬化症の患者さんや糖尿病性腎症の患者さんには特に尿酸値の管理をしていきます。

 

詳細なメカニズムは不明ですが、酸化ストレスと過酸化ラジカルという物質などが小さな細い血管の障害に関わっており、それらを多く含む腎臓の障害に繋がっているのでないかと言われております。最近、大阪市立大学が面白い研究をしていたので、貼っておきます。

『高尿酸血症が腎臓の機能障害の原因に 少しの異常でも腎臓に悪影響』

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尿酸値は多くても、少なくてもいけないと言われておりますが、現代人の過食な食事摂取環境から基本的には異常低値になる事は少なく、実際の臨床現場では高尿酸血症のコントロールをする事が多いです。具体的には、アロプリノールという体内の尿酸の生成を抑制する薬を使っていました。しかしながら、腎臓の機能が悪くなると副作用が出る事もあるため容量を調整しながら投薬します。

 

最近ではフェブキソスタット(フェブリク)という薬も良く使われます。腎機能で容量調整が不要のため使いやすい薬ではありますが、新しい薬であり本当に腎障害を抑制するかは議論されている段階です。アロプリノールとフェブキソスタットを比較した研究がされており、フェブキソスタットも悪くないという研究もそれなりに出始めています。腎臓内科医の先生方でもフェブリクを積極的に使う先生も多くいます。

 

何度も言いますが、腎臓内科は医者の中でもマイナーな領域で、メインストリームは心臓や脳、癌などです。基本的に腎臓の事なんて考える暇もないくらい忙しい先生方が多く、個人的には、確証は持てませんが、他科の先生には容量調整の不要なフェブリクを勧めています。10mgが徐々に増量して40mgまで投与可能です。肝障害の副作用が一応報告されているため注意しながら増量します。

 

後、尿酸の話をする上で欠かせないのが、痛風発作時の対応です。痛風発作を起こすとロキソニンなどのNSAIDsを内服して痛みを止めます。しかしながら、ロキソニンを大量に飲むと腎障害があるためあまりオススメされません。そういう場合はステロイドを投与する方法があります。具体的にはプレドニゾロン15-30mgから開始して一週間ごと1/3ずつ減量する方法です。(この方法はCKD診療ガイド2012にもしっかり書かれております。)

 

尿酸が腎機能障害に影響するという事は、腎臓内科の中でも議論されている所です。しかし流れとしては尿酸をコントロール方向に向かっている印象です。記事が増えてきたら改めて現在注目されている論文やその研究の限界についても触れていこうと思います。

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尿細管障害、尿中NAG、尿中β2ミクログロブリンとは? https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/875 Wed, 18 Jul 2018 03:43:23 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=875 腎臓の尿細管という尿の通り道が障害された時(=尿細管障害)とその時に上昇する検査項目である尿中NAG、尿中β2ミクログロブリンについて触れます。

尿細管障害とは?

腎臓は血管の塊の臓器で、体中の血液に老廃物などを集めて尿として排出する役割があります。まず糸球体(=しきゅうたい)というフィルターで必要な物と不要な物を選んで、尿細管という通り道に流します。この尿細管という通り道でも必要な物と不要な物のやりとりを行って、最終的に本当に不要な物を尿として、尿管、膀胱を経て体に出します。

尿細管障害の原因は?

原因は多岐に渡ります。下記に一覧を記します。

薬:抗菌薬、ロキソニンなどのNSAIDs、造影剤、抗てんかん薬、抗癌剤、アリストロキア酸を含んだ漢方薬

感染症:腎盂腎炎、腎結核

全身性疾患、血液疾患:サルコイドーシス、sjogren症候群、骨髄腫腎

代謝・電解質異常:痛風腎、高カルシウム血症

重金属中毒:リチウム、鉛、カドミウム、水銀

急性尿細管壊死:虚血、敗血症

基本的には、治療としては原因薬剤の中止、疾患の治療が中心となります。

尿細管障害の特徴は?

1:急性・慢性の腎機能障害がある事。

2:蛋白尿が軽微である事。(1g/日以下)

3:血尿/赤血球円柱よりも膿尿(白血球尿/白血球円柱)が見られる事。

4:多尿や夜間多尿等の尿濃縮障害を疑わせる症状がある事

5:その他の尿細管機能障害を疑う所見がある事。(尿細管アシドーシス、アミノ酸尿、腎性糖尿など。)    (日本内科学会雑誌 第97巻 第5号 引用)

尿中NAG、尿中β2ミクログロブリンとは?

尿細管障害の時に、尿所見として見るのが尿中NAG、尿中β2MGです。

尿中NAGは尿細管障害が起きて、尿細管の細胞が壊われている時に上昇する検査項目です。尿細管障害が起きた時に直ぐに上昇するため早期発見のために非常に有用です。一方で、尿細管障害以外の糸球体という腎臓のフィルターの障害でも上昇するため一概に指標とはいえないです。また、元々慢性腎臓病(CKD)の方でも上昇するため、元々腎機能障害が原因なのか、尿細管障害が起きたかは分かりません。基本的には『元々腎機能障害が無いのに、尿細管障害が起きている可能性がある時に測定する検査項目』という認識で良いです。

尿中NAGは早朝が高く、夜になると低くなります。早朝尿で測定したり、尿中クレアチニンという値で割り算をする事で補正したりします。

 

尿中β2MGは、尿細管障害が起きて、本当は再吸収されるはずのβ2MGが吸収されず尿中に出てくる事で上昇する検査項目です。尿細管障害が起きて、破壊されて再吸収が出来なくなった段階で上昇します。尿中NAGと同じで糸球体、腎機能障害でも上がるため、『元々腎機能障害が無いのに、尿細管障害が起きている可能性がある時に測定する検査項目』という認識で良いです。

尿中β2MGは運動時、妊娠の時増加するため解釈には注意します。

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腎臓病と歯周病について https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1412 Thu, 28 Feb 2019 22:26:41 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1412 腎臓内科医の森です。外来で腎臓病の患者さんに歯磨きをするように伝えているのですが、大半の患者さんにポカンとされてしまいます。腎臓病にとって歯を磨くことは立派な治療戦略の一つなのでここで記事にしておきます。

腎臓病の患者さんは歯が汚い??

近年、透析患者で口腔衛生が悪い事が分かっています。過去にヨーロッパやアメリカから同様の研究結果が出て、腎臓病の患者さんの口腔ケアに注目が集まりました。また、単に汚いだけでなく、腎機の障害にも何らかの関連があるのではないかと指摘されています。

歯周病は腎臓を障害する??

歯周病の患者さんでは、P.gingivalis(ジンジバリス)という菌を始めとした歯周病菌が歯茎の毛細血管から、血管に侵入して全身の血管を障害します。特に内皮細胞(ないひさいぼう)に対する障害は、動脈硬化を引き起こして腎臓にも大きな影響を与えると言われています。

また糖尿病の患者における歯周病では身体から出るインスリンが効きづらくなる「インスリン抵抗性」の状態となり、血糖コントロールが不良になることで腎障害を引き起こします。

アメリカやイギリスでも透析になっていない腎臓病では、健康な人に比べて歯周病になっている率が高いという報告もあり、歯周病と腎障害の関連性が現在注目されています。日本のデーターでも歯周病の炎症面積が大きいと腎臓の障害が進むことを示唆するデーターが出ています。

腎障害だけでなく、脳卒中、心筋梗塞、認知症、誤嚥性肺炎、早産・低出生体重・関節リウマチ、肝臓に大きく関わっていると言われており、幅広い予防医療領域として歯周病が注目されており、なんとスウェーデン・フィンランドでは歯垢除去が無料で行うこと出来ます。

科学的根拠という観点から、現状で「腎臓病の患者の歯周病を治療すれば腎臓の障害を抑えられる!!」ということを言い切れはしません。(現在ニュージランドで歯周病治療が腎臓病に良い効果をもたらすかを調べた研究が行われています。)

歯の手入れをしましょう!

一方で、口腔ケアで腎臓だけでなく認知症、誤嚥性肺炎など様々な観点から積極的に勧めることが出来て、口腔ケアを行って何か悪いことが起きる訳ではないので、医師として患者さんには積極的に「歯を磨きましょう!」と勧めています。

可能なら、日常の歯磨きやフロスだけでなく、定期的な歯科を勧めています。というのも歯周病菌は歯周ポケットの奥深くに潜み、歯科の専門用具を使って歯垢・歯石を掘り出しながら除去するのが望ましいとされているためです。

私も半年の一度歯科を受診して歯石をとってもらっています。比較的低コストでできますし、終わった後、気持ちがスッキリしておすすめです。将来的に良い投資だと思っています。皆さんもいかがでしょうか。

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ダイエットのための食事について。 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1312 Thu, 03 Jan 2019 00:40:37 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1312 腎臓内科医の森です。腎臓病の患者さんには、糖尿病、肥満に関連した腎症などダイエットが必要な患者さんが多くいます。医学的なアプローチとしては、手術・内服加療(本当に効くかは未知数)などが有りますが、結局大事なのは「生活習慣を変える事」です。

Googleでダイエットって調べると色んな記事が出てきますが、間違い無い事は「〇〇は痩せる!」、「◯◯で3ヶ月で10kg減!」というは99%嘘だと思って結構です。もしそれが本当なら、世界中のダイエットしたい人がその方法を真似して世の中殆ど痩せているはずです。今、世界中でダイエットの研究がされていますが、まだまだ確立された方法は見つかっていません。

今日は、その中でもダイエットについて分かってきた科学的根拠を紹介したいと思います。「痩せる方法」を探している方、特に「簡単に痩せる方法」を探している方は、この記事は合わないと思うので、違う記事を読んで下さい。ではいきましょう。

総カロリーを減らしても痩せ続ける事は出来ない。

究極的に、痩せるとは「摂取したエネルギー」と「使われたエネルギー支出」のバランスがマイナスになれば良いと考える事が出来ます。単純に言い換えると「食べる量(総カロリー)を減らして」、「運動を増やす」という作戦になるのですが、そんな単純な話ではない事が分かってきました。

2014年にJAMAという医者なら誰も知っているような世界的にも医学誌に載ったレビューがあります。(2ページ程でコスパが良いので医療関係者は読んでみても良いかもしれません。)

(Increasing Adiposity Consequence or Cause of Overeating?)

このレビューを簡単に噛み砕いて説明すると、総カロリーを減らすと基礎代謝が落ちます。摂取したエネルギーが少ないと、体もなんとか節約しようとして使うエネルギーを減らそうとするのです。そのまま食べるのを我慢する事が出来れば良いのですが、中々人間我慢が続かないため食べてしまいます。食べる量はもとに戻るのですが、使うエネルギーが中々戻らず最終的にリバウンドしてしまうとされています。

このレビューのポイントは2つあります。1つ目は、食事の全体量を減らすのではなく置き換える事です。(こちらは後で細かく触れます。)そして2つ目は我慢をするのではなく、精神的な面を含めて達成可能な小さな習慣を変える事が大切とされています。

レビューに書いてありませんが、具体的にはエレベーターを使わず階段を使う、歯磨きしながらスクワットをするというような、私達が普段行っている生活習慣に付け加えていくことが望ましく、意識的にやっていた事を半年後には忘れるような自然な形の習慣の変化が必要だと思われます。

食事を置き換えるのが一番良い。

先程の食事の全体量を減らすのではなく置き換える事が大切と伝えました。この事について書きます。

原則、ダイエットで一番難しいのは「痩せる事」ではなく「痩せたままでいる事」です。そのために食事の全体量はあまり変えるべきではありません。基本的には我慢をしてはいけません。ポイントは食事の「明らかに太るもの」を「明らかに太りにくいもの」に置き変える必要があります。最近流行りの糖質制限も似たような考え方だと思います。では、果たしてどのように置き換えていくべきなのでしょうか?

2012年に先程出てきたJAMAという世界的権威のある医学誌で発表された研究があります。この研究ではダイエットに成功して、ダイエットを維持するフェーズにいる患者さんに「A:低脂質食(炭水化物60・脂質20・タンパク質20)」、「B:血糖値が上がりにくい炭水化物(炭水化物40・脂質40・タンパク質20)」、「C:糖質制限食(炭水化物10・脂質60・タンパク質30)」の3種類の食事を食べてもらい、消費カロリーを比較しました。(Effects of Dietary Composition on Energy Expenditure During Weight-Loss Maintenance)

結果、「C:糖質制限食(炭水化物10・脂質60・タンパク質30)」が一番消費カロリーが良いという結果が出ましたが、慢性的な体の炎症を示唆するマーカーが上昇していたり、その他に体に負荷がかかっている可能性が考えられました。

一方で「B:血糖値が上がりにくい炭水化物(炭水化物40・脂質40・タンパク質20)」はある程度の消費カロリーを担保して、身体的な負荷も認めませんでした。

糖質制限に関しては諸説諸々あり、専門家でないためコメントはしませんが、長期的な食事の事を考えると、個人的には今回の研究の選択肢であればBを勧めたいと思います。具体的には、炭水化物の中でも玄米・そばなどのGIが低い食事を中心に炭水化物を摂るのが良いと思います。(玄米などについては別途で記事を書きますのでそちらをご参照下さい。)

どんな食品が良いのか?

食品と体重の関係を調べた研究がありますので最後にそちらを紹介したいと思います。こういう類の話をすると、「◯◯を食べましょう!」というニュアンスで捉えられがちですが、あくまで置き換える際の考え方の材料として考えて下さい。

2011年にNEJMというこちらも世界的な権威のあり、医者なら間違いなく誰でも知っている医学誌で発表された論文があります。この研究では12万人のアメリカ人の食生活を約4年間調べて、その後体重がどうなったかを調べました。(Changes in Diet and Lifestyle and Long-Term Weight Gain in Women and Men)

結果、以下の通りになりました。

何度も言いますが、この研究結果をうけてナッツを買い漁ったり、ヨーグルトを買い漁ったりするのは非常にナンセンスです。(テレビの報道で、次の日にスーパーから特定の食品が無くなるのをみると心配になります。)何度も言いますが「置き換える」んです。

例えば、白米が主食の家庭の場合、1食だけ玄米の置き換えるのが良いと思います。またおやつでどうしてもスイーツを食べなくちゃ気が済まない場合は、チーズとかナッツ、ヨーグルトに置き換えるのが良いと思います。

特にフルーツジュースは、ジュースだと体重が増えていますが、フルーツ「そのもの」だと体重が下がっています。フルーツの中にも太りやすいものと、太りにくいものがありますが、これを考えていたらキリがなくなります。何でも良いので、ジュースよりもフルーツ「そのもの」で食べていくと考えていくのが長期的に継続の観点から大切です。

(ここでチーズはナチュラルが・・・、塩は海水が・・・、みたいな話を持ち出してくる人がいて、それはそれで否定はしませんが、そこまで細かく自己管理が出来る人が世の中にどれだけいるんでしょうかね?取り敢えず僕は無理です。無理なくシンプルに考えて長く続ける事が大事。

長くなりました。食事については今後もアップしていきます。近日、玄米と白米についての記事をリリース予定です。また興味がありましたら読んで頂けると幸いです。

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腎臓病と認知症 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1495 Thu, 22 Nov 2018 21:30:32 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1495 腎臓病と認知症

腎臓病の患者さんは認知症である可能性が高いです。

血液透析、腹膜透析を受けている患者さんは、脳の萎縮のスピードが健常人と比較して2-3倍早くなるという報告もあります。

腎臓病で認知症が起きるメカニズム

メカニズムとしては、腎機能障害の原因となっている高血圧、糖尿病や、脂質異常症、喫煙、心房細動などの動脈硬化や血管の障害に加えて、腎機能障害で起きる貧血、副甲状腺亢進症などが関与していると言われています。

また、腎機能障害によって生じる酸化ストレス、レニン・アンジオテンシン、交感神経が関与しているとも言われています。

認知機能障害に関連する因子

アルブミン尿

久山町研究では、CKDとアルブミン尿は有意に関連しました。

血管性認知症は関連しており、アルツハイマー型認知症は関連してませんでした。

生活習慣病

高血圧は、血管性認知症との関与があり、アルツハイマー型認知症との関連はありません。

一方で糖尿病や喫煙は血管性認知症、アルツハイマー型認知症両方の関連が指摘されています。

また血圧の変動も血管性認知症、アルツハイマー型認知症両方の関連が指摘されています。

貧血

貧血が脳の循環や酸素の代謝に異常を起こして、前頭葉を中心とした脳の障害を起こします。

EPO製剤を使用することで、脳の機能を改善するという報告があります。(Improvement of brain function in hemodialysis patients treated with erythropoietin.)

認知症の予防・治療法

認知症を予防するためには、適度な運動、積極的な社会参加、囲碁・麻雀や散歩やスポーツなどを行う、また適度な飲酒(人によるが)も認知症予防に繋がると言われています。加えて、背景の生活習慣病である高血圧、糖尿病、脂質異常症を加療し、禁煙をして、認知症発症を防ぐ事に繋がると言われています。

RAS系阻害薬

CKDで生じる酸化ストレスが脳神経障害を引き起こします。

RAS系阻害薬を使用することで酸化ストレスを減らす可能性があります。

実際、アルツハイマー型認知症や加齢による認知機能障害に対してRAS系阻害薬の効果を示したメタ解析も出ています。(The association of renin-angiotensin system blockade use with the risks of cognitive impairment of aging and Alzheimer’s disease: A meta-analysis.)

血圧

SPRINT MIND試験では、厳格な降圧群(120mmHg以下)が、標準群と比較してprobable dementiaの発症に関しては有意差はないものの、HR0.83と低下していました。

腎移植

腎移植を行った結果、認知機能障害の改善を認めたデーターはあります。(Meta-analysis of cognitive functioning in patients following kidney transplantation.)

しかし健常人レベルまでは戻ることはありませんでした。

腎臓リハビリ

KDQOL-SFの認知機能障害の項目の改善の報告があります。

多因子の介入

FINGER studyというRCTでは、「運動」、「食事」、「認知トレーニング」、「血管リスク評価」を行う生活習慣改善群では、対照群に食わべて認知機能が25%も改善したという報告があります。

軽度認知障害とは

近年、腎臓に限らず認知症を早期発見して、早期治療しようとする流れがあり、軽度認知障害(けいどにんちしょうがい)という概念が注目されています。認知症は基本的に、これといった治療法が無いと言われています。一方でこの軽度認知障害は、認知症の一歩手前の状態でこの段階で介入する事で認知症になるのを遅らせる事が可能になるのではと言われています。

軽度認知障害は、「日常生活動作は正常、全般的な認知機能は正常、認知症ではないにも関わらず記憶障害があり、本人、家族が自覚している状態で、年齢・教育レベルでは説明がつかない状態」と言われています。MOCA-Jというツールを使って診断が出来るのではないかとも言われています。

腎臓病の患者さんは、若い方も含めて、この軽度認知障害の割合が高く、ブラジルの研究結果では7割程度、日本の研究でも6割程度が該当するという結果も出ています。

Montreal Cognitive Assessment (MoCA) screening mild cognitive impairment in patients with chronic kidney disease (CKD) pre-dialysis.

Mild cognitive impairment in older adults with pre-dialysis patients with chronic kidney disease: Prevalence and association with physical function.

ただ、軽度認知障害はまだまだ、分かっていない部分も多く随時情報提供しますが、少なくとも、この軽度認知障害についてはこの記事で伝えたいのは、腎臓病の患者では、透析になる事や心臓・脳の病気になるだけでなく、認知機能に影響を与える可能性があり、より運動や生活習慣病の治療を行なって早い内から予防していくことが大事だと言うことです。

また、可能であれば、ご高齢の場合、腎臓病と共にどのような人生を歩んでいくか、家族のサポートをどのように得ていくかなど、しっかり考えていく事が望ましく、難しい部分もありますが、可能な限り整備していく事がより良いとも思います。

腎臓病はご高齢の方が多くて、一概に透析や死亡という概念だけでなく、以前記事にした筋力や認知機能などに目を向けていく必要があります。もしかしたら、そちらの方が大事なのかもしれません。そしてやはりベースは食事と運動です。認知症に対しては残念ながら科学的根拠が明らかな薬物療法はありません。

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腎臓を守る降圧薬「RAS系阻害薬」とは?? https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1461 Wed, 27 Mar 2019 12:43:32 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1461 RAS系阻害薬とは?

RAS系阻害薬とは、血圧を上げるレニン・アンギオテンシン・アルドステロンという身体のホルモンの分泌に作用することで血圧を下げるお薬です。

血圧を下げるだけでなく、心臓・腎臓に保護的に働く効果が報告されており日本でも良く使用されている薬です。

具体的には、ロサルタン(ニューロタン)、アジルバ(アジルサルタン)、オルメテック(オルメサルタン)、ブロプレス(カンデサルタン)、ディオバン(バルサルタン)、ミカルディス(テルミサルサン)、レニベース(エナラプリル)などがこれらに当たります

腎臓を守る作用がある

RAS系阻害薬には、腎臓を守る作用が期待されています。

腎臓には糸球体(しきゅうたい)という身体の必要な物質・不要な物質をやり取りしている場所があるのですが、血圧が高いと糸球体に圧力が掛かります。

このRAS系阻害薬には、糸球体にかかる圧力を和らげる事で腎臓を守る働きがあると言われています。

心臓を守る作用がある

腎臓病では交感神経が活性化したり、血圧が上がることで心臓に負担を与えます。

結果、腎臓病の患者さんでは心臓の病気になるリスクが数倍になります。

RAS系阻害薬は、腎臓だけでなく心臓を守る作用も期待できます。

薬の注意点

腎臓・心臓を守る良い薬ではあるのですが、数点注意点があります。

腎機を障害する時がある

実は、RAS系阻害薬は人によっては、腎臓を障害することもあります。

もともとRAS系阻害薬は腎臓に流れる血液による過剰な圧力を取り除くことで腎臓を守ります。

逆に、腎臓に流れる血液が少ない人にこの薬を投与することで、必要な圧を更に下げてしまい腎臓を障害してしまいます

具体的には、動脈硬化が強い人、高齢者、夏場で脱水がある人、ロキソニンやカルシウムの薬を飲んでいる人などは、要注意です。

カリウムが上がる時がある

腎臓病だと、カリウムという成分を尿から出なくなり身体にカリウムがたまってしまうことがあります。

カリウムが溜まりすぎると、突然死の原因となる不整脈の原因となることがあります。

このRAS系阻害薬を飲んでいるとカリウムが身体に溜まりやすくなるので注意が必要で、適宜採血を行って異常がないか評価します。

Q&A

このくすりを飲んだら、eGFRが下がってしまいました。大丈夫ですか?

院長
院長

eGFRの下がりがある程度であれば、問題ありません。

GFRが下がっても大丈夫なんですね

院長
院長

腎臓に必要以上の圧力かかっているとGFRが上がって値としてはよくなるのですが、長期的には望ましくありません。このくすりは腎臓の圧力をとってあげることで腎臓に保護的に働きますが、値としてGFRは下がります。

どのくらいまでOKなんですか

院長
院長

だいたい3割以上悪くなると、良くないと言われています。そのため適宜採血で確認をさせて頂きます。

遠慮なくご相談ください

赤羽もり内科・腎臓内科では、「透析予防」のための診療を行っております。

薬の調整なども積極的におこなっていきます。

何かご不明なことがあれば遠慮なく、お問い合わせください。

院長
院長

透析予防の腎臓医療は当院にお任せください。赤羽もり内科・腎臓内科のホームページはこちら。

 

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腎臓病の原因をまとめました。 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1092 Wed, 27 Mar 2019 22:00:27 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1092 腎臓病とは腎臓の機能が障害されて、体にとって不要な物を排泄するだけでなくには様々な人体のメカニズムに関わっており、貧血・筋肉など一つ一つ対策をしていく必要があります。また原因によって治療が変わるため今日は腎臓病の原因について触れたいと思います。

腎臓病の原因は?

腎臓病の原因として挙げられるのは「生活習慣病」と「生活習慣病以外」にわけることができます。生活習慣病関連では、糖尿病によるもの、高血圧・タバコなどの動脈硬化によるもの、肥満によるものなどが挙げられます。

現在透析医療が必要な方の40%程度が「糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)」による腎臓の障害が原因で、10%から20%の人が動脈硬化性の病変による「腎硬化症(じんこうかしょう)」が原因と言われています。

生活習慣病以外の疾患で透析医療が必要になる病気としては IgA 腎症、多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)などの免疫・遺伝関連などを背景とする病気が挙げられます。

それぞれの原因で治療法が変わる。

原因によって治療方法が変わります。敵をしっかり見つけて、しっかり対策を立てることが大切です。そのために問診・採血・採尿検査・画像検査を行い判断していきます。

例えば、若くて糖尿病・高血圧のない患者さんの尿検査の異常(尿蛋白・尿潜血)は特別な治療が必要な疾患を疑います。一方でご高齢の方で生活習慣病が30年〜40年間あり、採血・採尿検査・画像検査でも生活習慣病を背景とする腎臓の障害を疑う時は、糖尿病性腎症・腎硬化症を疑います。

ただ時折、これらの問診や検査で分からない場合は、腎生検(じんせいけん)という、腎臓を針で刺して組織を採ってきて、それを顕微鏡で見て実際の形を調べる検査をします。腎生検は診断をつける意味では非常に有用な検査はですが、検査自体に出血・感染などのリスクがあるため従来の検査で明らかにならない場合に行う検査です。

https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/24

各疾患の治療法をまとめましたのでそちらをご参照下さい!

糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)

糖尿病性腎症
糖尿病性腎症について、検査、食事、治療薬などについて腎臓内科医が書きました。

血糖コントロール・血圧コントロールがメインです。食事療法・運動療法・薬・インスリン療法が挙げられます。治療については後日詳しく書いた記事を更新します。

腎硬化症(じんこうかしょう)

腎硬化症
高血圧や動脈硬化が原因で起きる腎臓病の病気です。腎硬化症の原因、検査、治療について腎臓内科医が書きました。

基本的には血圧コントロールがメインです。減塩・食事・降圧療法を行います。

IgA腎症(アイジーエイジンショウ)

IgA腎症
IgA腎症とは、免疫関連の原因で起きる腎臓の病気です。根本的な治療はありませんが、近年腎臓の障害を抑える治療法も見つかりつつある病気です。わかっていることをまとめました。

病態によりますが扁桃摘出術、ステロイドによる治療があります。

多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)

多発性嚢胞腎(ADPKD)
多発性嚢胞腎とは、嚢胞(のうほう)という液体の塊が腎臓に出来て元々の腎組織が圧排される病気です。

病態によりますがサムスカなどの治療があります。

早く見つければ見つける程よい!

腎臓は一度障害されると原則良くはなりません。なので治療戦略としてはこれ以上悪くならなくする、および悪化の速度をゆっくりしていくのが治療戦略になります。

なので早く見つけれると治療戦略が立てやすいと同時に食事などの生活習慣の制限も少なくなります。腎臓病は健康診断の採血・採尿検査で見つかる事が多く腎臓の異常を指摘された場合は、急がないので医療機関に一度受診する事が望ましいと思います。

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高齢の腎臓病患者にタンパク質摂取を制限をしない理由をまとめました。 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/940 Wed, 27 Mar 2019 02:45:36 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=940 慢性腎臓病(CKD)患者さんには、蛋白制限をする事で腎臓に対する障害を減らして透析を先延ばしすると言われています。CKD診療ガイドライン2018では以下のように記載されています。

CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限するを推奨する。

しかし、私は患者さんとしっかり協議した上で、希望あれば『75歳以上の患者さんには蛋白制限をしない』方針にしています。先程冒頭で触れたCKD診療ガイドライン2018でも下記のように記載されています。

画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、腎臓専門医と栄養管理士を含む医療チームの管理の下で行うのが望ましい。

それを踏まえた上で、今日は何故私が『75歳以上の慢性腎臓病(CKD)患者さんには蛋白制限をしない』方針にしているかについて触れたいと思います。最初に断っておきたいのは、これはあくまで過去の論文や、臨床現場での感覚、個人的な診療スタイルに基づいて考え抜いた結論であり、一律すべての患者さんに適しているとは全くいっていません。

また私も患者さんによって、75歳以上でも蛋白制限をする事もあります。最近多くの患者さんにこのサイトをみてもらっています。基本的には主治医の先生がいる場合は、主治医の先生の仰っている事が正しいと思いますので私の言う事より優先させて下さい。

蛋白制限に関して今までどんな科学的根拠があるのか?

実は、蛋白制限に関しては、有用であるという意見と実はあまり有用ではないという意見で分かれており、世界中で議論されています。その中で、今まで行われた研究の中で特に有名な研究がMDRD studyです。

糖尿病ではない慢性腎臓病(CKD)の患者さんに対して、蛋白制限した人達(0.58g/kg/日)と、蛋白制限をしない人達(1.3g/kg/日)で分けて経過をみました。2年後に経過をみた所、蛋白制限をした方が、腎機能障害進行が緩やかになる傾向になり、やはり蛋白制限をした方が良いのではないかという結果になりました。この時期に同様の研究が組まれて、蛋白制限がした方が良かったという結果と、あまり変わらないという研究が混在するような期間が続きました。

その後、MDRD studyの観察は12年間続いて、蛋白制限をした方が、最初の6年間は腎機能障害進行が緩やかになる傾向になりましたが、12年後にあまり変わらないという結果になりました。

この研究結果は、AJKDという腎臓内科なら全員が知っているような有名雑誌に連載されて話題になりました。一方でこの研究にはいくつかの問題点を抱えています。例えば、蛋白制限した人達が『本当に蛋白制限をしていたか』が明らかにされていない事です。蛋白制限をしていたかどうかを確認するには食事を全て覚えておくか記録していくか、尿検査もしくは便検査をする事で分かるのですが、これを12年間毎日行うのは不可能です。またこの研究では、最初の頃は定期的に蛋白質の量を調べていましたが、後半は全然行われていませんでした。

実際蛋白制限をやってみると分かるのですが、目標値を結構達成するのは非常に難しいです。過去の違う研究では『蛋白制限(0.55g/kg/日)を指導して達成できた人は27%しかいなかった』という結果が出ました。MDRDstudyでも多くの患者さんが蛋白制限が出来ていなかった可能性があります。(Metabolic Effects of Two Low Protein Diets in Chronic Kidney Disease Stage 4-5–a Randomized Controlled Trial)

 

また蛋白質以外の影響も考慮しなくてはいけません。例えば、塩分です。塩分制限は腎臓を保護する作用があります。身の回りの置き換えると、肉、魚など蛋白質が多い食事って塩分多く含まれていますよね。このMDRD studyでも、蛋白制限していた人達は制限していない人達よりも、塩分摂取量が少ない可能性があり、塩分摂取量が腎障害に大きく影響した可能性があります。

MDRD studyに限らず多くの研究で、蛋白制限が本当に影響したのか、それともシンプルに塩分制限が影響したのかについては毎度議論になります。(過去にこの事を調べたインパクトのある研究があるそうなのですが、検索能力不足で辿り着けませんでした、どなたか教えてください。)蛋白制限における塩分制限について書かれた記事もKidney Internationalという腎臓の世界では有名な雑誌から出ています。(Is it the low-protein diet or simply the salt restriction?)

現段階では、蛋白制限が確実に腎臓を守るという事に関しては、塩分摂取みたいにコンセンサスが得られていないのが現状です。

そして、蛋白制限は確実に腎臓を守るという事を証明するには、膨大なお金、膨大な労力、膨大な時間が必要になります。食事関連の研究は、『食事遵守の証明』、『摂取量の評価法』を始め、結論を導くのに膨大なプロセスが必要です。医薬品が効果があるのかを証明するより大変です。おそらく蛋白制限に関しても先数十年結論が出ないと思います。

私はこう考えています。

結局、現段階では、『蛋白制限が意味がある派』と『蛋白制限が意味がない派』に分かれています。色んな先生の話を聞いたり、過去の論文や、臨床現場での感覚、個人的な診療スタイルに基づいて考え抜いた結論以下のように考えています。

蛋白制限は腎臓を守ると思う。一方で75歳以上に関しては、人生における食の楽しみや生きがいを失ってまで行う程の価値は無い。

得るものより失うものが大きい。

塩分制限程明らかであれば自信を持って推奨したい所ですが、蛋白制限に腎臓に対する効果はまだ明らかではありません。

明らかではないメリットに比べて、患者さんの労力・負担が大きすぎるような気がします。肉・魚にどれだけタンパク質が含まれているかを計算して、毎日食事を作る必要があります。蛋白制限で摂取カロリーが少なくなるため、代わりに炭水化物、脂質を増やす必要があります。

例えば白米の量を増やしたとしても、漬物や塩辛いものを増やすと塩分過多になってしまいます。75歳以上の後期高齢者の方を一括りにしてはいけませんが、毎日生活をするのが精一杯の方が多い中で、食事に関しても『あれもだめ、これもだめ』と細かく指導する事に個人的には意義を感じる事が出来ません。

中には『食事=悪』という構図がイメージで付いてしまい、ご飯を全く食べなりドンドン痩せていく患者さんがいます。しかも想像以上な頻度いるような気がします。皮肉にも筋肉量が下がると、腎臓の状態を示すクレアチニンの値は下がるのでなんとなく、腎臓が良くなったように勘違いしてしまいます。

また、精神的にも、蛋白制限を含めた食事療法でうつ状態になる可能性も示唆されています。(Psychological Aspects of Low Protein Diet Therapy)

筋肉が衰えて寝たきりになってしまう可能性がある。

腎臓の機能が悪ければ悪いほど、フレイルという『老衰した状態、衰弱した状態』になってしまう患者さんの割合が高くなると言われています。

一番手前が『フレイル』の患者、真ん中が『フレイルになりそうな』患者を示します。横軸はeGFRといって端的にいうと『腎臓の点数』です。このグラフからはeGFRが15以下、30以下の患者さんは、数倍以上寝たきりになる可能性が上がる事が分かります。

一方で、高齢者に限らずしっかり運動(=歩行や軽いジョギング)をする事で腎臓を守り、透析を先送りしたりする可能性が示唆されています。

一番下の点線が、習慣的に歩行している患者さんです。一番上の実線の人と比べると、予後が良い事が分かります。

蛋白制限をすると、低栄養になったり筋肉が衰えるのかという事に関しては、関連があるという研究と関連がないとしている研究があります。個人的には、蛋白制限した分炭水化物や脂質でカロリーを補ったりして確実に蛋白質を0.6-0.8g/kg/日に抑え込む事が75歳以上の患者さんの生活において重要視するポイントにはならないと思います。

医者のくせに科学的根拠に基づかずに、こんな事を言うと怒られてしまいますが結局、75歳以上の後期高齢者の慢性腎臓病(CKD)患者にとって

『一杯食べて、一杯運動して、一杯休む』のが一番良い

のが一番シンプルかつ達成可能なんじゃないかと思います。診療していてこのシンプルな生活指導が意外と患者さんに刺さっていて、私の外来の一定数の患者さんが万歩計を買って、血圧手帳に一日の歩数を記録してくるようになっています。長期的に考えなくてはいけませんが、実感的には、体力もついてきているし、何より歩数という見える指標があってなんとなく楽しそうです。長期間続けるためには楽しい事が大切です。

蛋白制限の代わりに出来る事がある。

ここまでの話を聞くと蛋白制限を否定しているように見えますが、蛋白制限には一定の効果があるとは思っています。蛋白制限をしないならしないなりに、この効果を他の方法で代用する必要があると思っています。

1)体が酸性になるのを防ぐ

蛋白制限の目的としては、蛋白質由来の不揮発性酸で体が酸性になってしまう事を防ぐ事が挙げられます。進行した慢性腎臓病(CKD)では、体の酸性の物質を腎臓から排泄出来なくなります。酸性の状態は、筋肉、骨の量を減らしてしまいます。

これに対して、重曹という体をアルカリに寄せる薬を投与する事が可能です。過去に体が酸性にならないように重曹を入れる事で腎障害の進行を遅らせる事が出来たという報告もあります。(Bicarbonate Supplementation Slows Progression of CKD and Improves Nutritional Status)

2)腸内環境を整える

腎臓と腸の関連は最近注目されている領域です。腎臓が悪くなると、様々なメカニズムで腸内細菌叢の変化、腸血流低下などが起きて便秘になりやすくなると言います。この話を掘り下げると本1冊ぐらい書けてしますのであまり触れませんが、便通管理は非常に大切です。(興味がある医療関係者は日本内科学会の「見えてきた腸腎連関の存在」のレビューが勉強になります。)

クレメジンというお薬が、腸内の毒素を吸着する効果があるとして使用されていました。一方で、最近欧米で行われた研究ではあまり効果がないのではないかという研究結果が出ました。腎臓内科医の間で使用する先生と使用しない先生が分かれますが、私は使用しない派です。

蛋白制限は腸内環境に好ましいとされているのは事実です。蛋白制限をしない代わりに適度な運動と、適度な食物繊維の摂取(←最近色々議論されているが・・・)をしっかり行ってもらい、便秘に対して必要であれば薬を投与します。個人的には、特にアミティーザという一般的に使われているお薬は腎臓を保護する作用があるかもしれないと言われており(動物実験では既に証明されています。)便秘薬を選ぶ時は副作用が無い限りアミティーザを好んで使っています。

最終的に患者さんに伝える内容は

長々と75歳以上の後期高齢者の慢性腎臓病(CKD)の患者さんに蛋白制限をしない理由を綴りましたが、勿論これを全て外来で話す事など不可能ですし、間違いなくキャパオーバーでパンクします。家族が一緒にいる時は、『塩分制限の重要性、過度に蛋白質を摂らない(少なくとも1.3g/kg/日以下にはする必要がある)』ように伝えて、シンプルにこう伝えています。

1:『基本はしっかり食べる!!そして一杯運動する!』

2:『素材の味を楽しみましょう!これで塩分制限になります!』

3:『バランス良く食べましょう!これで蛋白過剰は避けられます!』

食事制限を過度に求めると、患者さんが嫌になって『もういいわ!』ってなってしまい、塩分制限も内服も全て辞めてしまう事があります。私も過去に教科書どおり指導して、患者さんがパニックになってしまった事がありました。食事の話は一生付き合っていく話です。

食事制限は大きく求めず、塩分制限の説明を重点的に行い、一通りの話をした上で、『素材の味を楽しみましょう!』とポジティブに話をした方が意外と患者さんもついてきてくれます。

何度もお伝えしますが、この記事は私個人的な治療方針です。ここらへんに関しては論文が出るごとに診療方針もアップデートしていこうと思います。長くなりましたが75歳以上の患者さんに蛋白制限をしない理由をまとめました。

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腎臓とタンパク質制限について https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1696 Fri, 29 Mar 2019 02:09:42 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1696 腎臓内科医森です。腎臓病の食事療法として、塩分のこと、野菜・果物のことなど様々な記事について書いていきましたが、今日はタンパク質の話をします。

腎臓病の患者さんでは、タンパク質の量を減らすことが望ましいと言われています。腎臓病のガイドラインであるCKD診療ガイドライン2018でも「腎臓病の進行を抑制するためたんぱく質摂取量を制限することを推奨する」と記載されています。

実は、この腎臓病におけるタンパク質制限に関しては「果たして本当にタンパク制限が患者さんのためになるのか??」という議題に対して、腎臓内科医の中でも意見が分かれます。

腎臓内科.comではなるべく現場の医師はどう考えているかを意識して執筆しているのですが、タンパク制限については医師によって考え方が違うのでその点はご了承いただきこの記事では私の考えを書きたいと思います。

なぜタンパク質を制限するのか?

腎臓病の患者さんでタンパク質を制限するのは以下のような理由があります。

腎臓に掛かる負担を減らす。

食事から摂取したタンパク質は、代謝されて必要な分は筋肉などに取り込まれて、不要な分は最終的に尿から排泄されます。

必要以上にタンパク摂取をすると尿から排泄する老廃物の量が増えて、これが最終的に腎臓の糸球体(しきゅうたい)という老廃物をやり取りする場所に負担を与えると考えられています。

尿毒症のリスクを減らす。

腎臓病が進行して、腎臓病ステージ4以降になると腎臓の体の老廃物を出すという役割が鈍り体に老廃物が貯まるようになります。尿毒素という老廃物が貯まる状態を尿毒症(にょうどくしょう)と言い、透析が必要になる一歩前の段階で見られる症状です。

尿毒症は、食思不振・倦怠感・意識障害などの症状を引き起こし命に関わるため、尿毒症がコントロール出来なくなったら透析を始めるという判断をします。

タンパク質を制限することで、尿毒素の量を減らして尿毒症になる可能性を減らすと考えられています。

血液中のリンが増えないようにする。

腎臓は身体のミネラルのバランスを整える役割があるのですが、腎臓病だとこの能力が衰えてミネラルバランスが崩れます。リンもミネラルの一種で腎臓病だとリンが溜まってしまいます。高リン血症といいます。

高リン血症は骨折や動脈硬化などに大きく影響を与えて心筋梗塞などのリスクを上げたり、腎臓病の進行に影響すると考えられています。(詳しくはこちらにリンと腎臓についてまとめたのでご参照ください。

タンパク質を多く含む食品には、リンも含まれていることが多くタンパクを制限することが高リン血症の治療につながると考えられています。

上記3点以外にも糖尿病の治療を効果的にする効果や、不要なお薬を減らす効果などが期待されています。

タンパク制限で腎臓を守ることができるのは本当か??

タンパク制限に関しては冒頭で述べた通り、医師によって考え方が大きく異なります。その理由として第一に「タンパク制限は本当に効果がある」と言い切れないことが挙げられます。腎臓内科医の中には、「タンパク制限はあんま効果ないんじゃない?」って考えている人が一定数いる訳です。

今から25年ほど前にMDRD studyという研究が組まれて「タンパク制限をした方が腎臓を守ることが出来る!」という趣旨の研究結果が出て話題になりました。しかし、この研究には数点の問題点もあり、MDRDstudyの結果を肯定的に捉える人と批判的に捉える人で意見が割れました。

この時期からタンパク制限に関しては様々な研究がされるようになりましたが、現段階で答えは出ていない状況です。2018年に私もEDTAというヨーロッパの学会に出た時もタンパク制限について肯定的な意見と否定的な意見が分かれていて世界的にみても良く分かっていないことが分かりました。

タンパク制限のデメリット

筋力低下の恐れ

タンパク制限をする際に特に気をつけなくてはいけない事は、炭水化物、脂質の他の栄養素でしっかりカロリーを補い総カロリーを減らさないようにする必要があります。腎臓病の場合、健常人の比べて身体機能が7割まで低下していると報告されています。そのためしっかり食べて、しっかり運動するのは腎臓病の患者さんにとって非常に大切な治療戦略です。

しかし実際の医療の現場では、タンパク制限、塩分制限が患者さんの認識の中で過剰に印象付けられて、何も食べなくなり、筋力が衰える事が多々あります。また、腎臓病の患者さんでは味覚が低下しており、加えて塩分制限・タンパク制限の影響で食事を食べなくなる患者さんも一定数います。

タンパク制限のポイントは制限する分のカロリーを他の栄養素でどうやって補うかの戦略があるかどうかです。腎臓内科医、栄養士などの定期的なサポートが必要になります。

精神的ストレス

腎臓病と食事摂取量を調べた結果、腎臓病の患者さんは他の患者さんに比べて食事量が低下しているという報告があり、加えて、食事制限によって精神的ストレスが溜まり、QOLが低下するといった報告があります。日本の腎臓病ガイドラインでも精神的なストレスのケアを行う必要性があると記載されています。

私はこう考えています。

様々な研究結果を漁って調べてみた結果、最終的に個人的に以下のように解釈しています。

1:どちらにしろタンパク質の摂りすぎは良くない。(1.3g/kg/日以上)

2:腎臓病ステージ3aではあまり有効性が証明されていない。一方で腎臓病ステージ4.5だと比較的効果が期待できそう。

3:植物性のタンパクの方が良さそう。

4:後期高齢者は筋肉量が落ちる可能性があり良くない。

 

どちらにしろタンパク質の摂りすぎは良くない。

腎臓病ステージ1,2のような軽症の場合も、タンパクの摂りすぎは良くないとされています。体重あたり1.3g/日は超えないようにする必要がありそうです。

これは日本の腎臓学会、国際的な腎臓機関であるKDIGOの同様の発表しています。一方で腎臓病ステージ1,2のような軽症の場合、過剰にタンパク質を制限する必要はありません。腎臓病の場合、塩分、カリウムなど食事に関して、意識すべき点が一杯あります。全てを達成するのは不可能なので、優先順位が大切でありタンパク質に関してはステージ1,2であればある程度気にするくらいがちょうど良いと思います。

腎臓病ステージ4.5だと比較的効果が期待できそう。

前述した通り、タンパク制限は尿毒症や高リン血症に効果があると言われています。腎臓病ステージ4,5辺りになってくると尿毒症、高リン血症の頻度が高くなります。比較的若くて元気な方で、食事管理がしっかり出来そうな場合は腎臓病ステージ4,5辺りになってきたら積極的にタンパク制限を勧めています。

植物性のタンパクの方が良さそう。

後日追記します。

後期高齢者は筋力低下・QOL低下の可能性があり良くない。

75歳を越えた後期高齢者には、原則タンパク制限は勧めていません。若い人に比べて、後期高齢者は筋力・QOLの重要性が高まります。寝たきり、認知症、生きがいなどが非常に大切に要素になり、食事制限はこれらの大切なものを奪う可能性があります。

後期高齢者のタンパク制限についてはこちらに詳しくまとめましたのでご参照下さい。(高齢の腎臓病患者にタンパク質摂取を制限をしない理由をまとめました。

 

タンパク制限は医師の考え方によって、患者さんの状況によって行う時と行わない時があります。中々WEBで一律に情報提供出来ないのは苦しいところですが、WEBの画一的な情報提供で苦しんでいる患者さんが一杯います。何か質問がございましたら診察室で遠慮なく質問頂ければと思います。

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タンパク尿 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1081 Sat, 16 Mar 2019 05:41:58 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1081 尿タンパクとは

結論から申し上げると、尿タンパクは「腎臓のSOS」であり、放置すると透析が必要な状態になるので放置せずにしっかり医療機関にかかることをオススメします。

尿タンパクとは、尿にタンパクが混じっている状態です。

腎臓という臓器は「必要な物を体に留めて、不要な物を尿として体の外に出す」臓器です。

腎臓の糸球体(しきゅうたい)というフィルターのような構造がこの役割を担っており、タンパクは私達の体にとって必要な物なため原則外に出る事はありません。

尿に蛋白が混じっているという事は、「出ていくはずのない蛋白が尿に出ている」という事であり、腎臓に異常がある可能性があります。

院長
院長

実際診療をしていて、「尿タンパク」を放置して気付いた時にかなり腎障害が進行している事が多々あります。

尿タンパクが出ている透析になる?

尿タンパクが出ていると透析になるかどうかについて、下の図を見ていただけると明確です。

(CKD診療ガイド2009)

上の図の結論は、「尿タンパクが2+、3+の患者さんは17年後に透析になっている確率が圧倒的に高い」という内容です。

院長
院長

にも関わらず、健康診断で、尿タンパクが2+、3+だった患者さんが一杯いるのでもっと啓発が必要だと個人的に思います。

尿タンパクが出る原因

基本的に蛋白尿が出る原因は、大きく3パターンあります。

1)生活習慣病が原因

高血圧・糖尿病・喫煙などの生活習慣病を背景とする腎障害で起きるものがこちらに当たります

日本で腎障害が起きて、透析という医療が必要になる患者の40-50%が糖尿病を背景する腎障害の「糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)」です。

10-20%程度が高血圧・喫煙などの動脈硬化が原因で起きる「腎硬化症(じんこうかしょう)」です。

その他にも肥満を原因とする「肥満関連腎症」などがあります。

2)免疫や遺伝などが原因

生活習慣病以外が原因となる腎障害、IgA腎症・多発性のう胞腎・巣状糸球体硬化症・微小変化型ネフローゼ症候群・血管炎などこちらに当たります。

日本で割合が多いのが、IgA腎症・多発性のう胞腎です。(多発性のう胞腎は比較的蛋白尿が出ないですが。)

3)異常のないタンパク尿

時折、体の構造上蛋白尿が出やすい患者さんも時折います。こちらは腎臓に異常が無いための治療は必要ありません。

医療機関で行うこと

1)尿タンパクを詳しく調べる

実は健康診断などで使われる尿検査は、不正確な部分もあり、もう少し詳しく調べることが出来ます。

例えば、脱水だったりすると、尿タンパクが出ていないにも関わらず、尿タンパク出ていると判定されることがあります。

そのため、実際の出ているタンパク尿の量を測定するとより正確に調べることが出来ます

また可能であれば朝一番の尿検査が一番正確ですので、朝に調べると二度手間なく評価をすることが出来ます。

2)血尿がないか確認する

タンパク尿に加えて、血尿が出ていると、早急に対応しなくてはならない疾患があるのでしっかり精査する必要があります

尿路結石などの血尿が出る疾患がある場合や、女性で生理中の場合は評価しずらいので、申し出をしたり、時期をずらして検査をするのが望ましいと思います。

以下の場合は専門医の所で精査をする事が望ましいと思われます。

A:試験紙法で蛋白尿2+以上ある場合、もしくは尿定量検査で0.5g/gCr以上だった時。

B:蛋白尿1+かつ血尿1+の時

3)適宜、画像検査・病理検査を

採尿検査で異常が本当にありそうであれば、採血検査・CT・超音波検査などを行います。

腎臓の現在の状態や腎臓の形を評価することで、背景にある原因を予想します。

その上で、必要時には腎生検(じんせいけん)という検査を行い、腎臓の組織を採って、病理学的に評価を行います。

Q&A

Q1 タンパク質を一杯食べているから、尿タンパクが出るというのは本当ですか?

院長
院長

基本的には、タンパク質を一杯とっていることと、尿タンパクが出るのは関係ありません。異常のない尿タンパクはないです。

遠慮なくお問い合わせください

赤羽もり内科・腎臓内科では、「透析予防」のために早期の発見・治療が出来るように診察させて頂いております。何かご不明なことがあれば遠慮なく、お問い合わせください。

院長
院長

透析予防の腎臓医療は当院にお任せください。赤羽もり内科・腎臓内科のホームページはこちら。

 

 

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先行的腎移植(PEKT)についてまとめました。 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/2135 Tue, 22 Oct 2019 03:32:05 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=2135 先行的腎移植:PEKTとは?

腎臓病が進行して、透析を始める前に行う移植を先行的腎移植(せんこうてきじんいしょく)と呼びます。日本ではペクト(PEKT)とも呼び、この記事でもPEKTと書きます。

末期腎不全になると血液透析、腹膜透析、腎移植の3つのいずれかが必要となります。この3つを腎代替療法(じんだいたいりょうほう)と呼びます。

腎代替療法の中で腎移植は一番生命予後が良いと呼ばれているのですが、その中でもPEKTは生存率及び生着率(移植した腎臓が保たれる率)が高いという報告がありPEKT が行われるようになりました。(本当にPEKTが生命予後、生着率に良いのかという点に関しては実は批判的に考える報告もあり、ここらへんはまだ明らかなコンセンサスがないと考えることも出来ます。)

透析を行うことで残腎機能が低下したり、心臓に負担がかかったり、低栄養、慢性炎症の状態になることがあります。PEKTはこれらの要素を防ぐことができると考えられています。例えば、PEKTは急性拒絶の割合が少ないのは慢性炎症が関わっていると考えられていたり、心機能低下がある患者さんにPEKTをすると改善するが透析を長期間続けている患者さんだと心機能改善が乏しいという報告もあります。

PEKTのメリット

PEKTのメリットは先程の生存率及び生着率が高いという点が一番ですが、それ以外にも以下のようなメリットがあります。

・透析による合併症を防ぐ(筋力低下、心血管イベントなど)

・医療費の削減

・透析による社会生活の損失を防ぐ

一方で、生存率及び生着率が高いという点に関して、批判的に考える科学的根拠もあるのも事実です。更に透析を経験しないことで移植の恩恵を感じることが出来ず、必要な薬を飲まなく腎臓を駄目にしてしまうリスクが上がるという報告もあります。

また、糖尿病性腎症のような急激に腎臓が悪くなることが予想される病気の場合は、手術の準備をしている時に腎代替療法が必要な状態になり透析を急ぎで行ったりすることもあり、実際には手術前に透析を数回を行って安定した状態にしてから手術を行うことも多々あります。逆に腎硬化症や多発性嚢胞腎のような比較的ゆっくり進行する腎障害に対する腎移植は比較的PEKTになることが多いと言われています。

PEKTのポイントとは?

PEKTのポイントは「早めから準備して、正しい時期に移植をすること」です。

移植をするには、準備が必要です。具体的には感染症のチェック、悪性腫瘍のチェック、心機能のチェックなどを行います。(詳しくは別記事でまとめる予定です。)これらの検査を行ったり、移植カウンセリン、様々な手続きを含めると準備期間は半年〜1年くらいかかるようになることが多いです。

そのため、腎代替療法が必要になる状態の半年から1年前から準備を行っておく必要があります。決して早ければ良いわけではなく、腎代替療法が必要になる直前が良いのですが、中々実際コントロールをするのが難しいのが現状です。目安としては日本では症状や他の採血項目などによりますが、eGFR8程度で行われることが多いようです。

最後に

PEKTはメリットも大きい一方、入念な身体的・精神的準備が必要です。個人的にはPEKTが希望の患者様にはeGFR20以下の時に情報提供を開始し、必要であれば移植専門の施設の外来を受診して頂き、eGFR15以下の時から移植前検査を検討しています。PEKTにこだわるあまり、検査前の検査を怠ったり、精神的な配慮を怠るのは本末転倒です。

何かございましたら診察を受け入れておりますので、適宜ご相談ください。

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透析療法・腎移植療法についてまとめました。腎臓病が進行したら必ず知ってほしいこと。 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1747 Thu, 21 Feb 2019 13:36:39 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1747 今日は、透析療法、移植療法についてお話をしようと思います。「腎臓内科.com」は「透析になるのを防ぐ」ために更新しているサイトなのですが、腎臓病の医療では「透析・移植が必要になった時にどのような治療を選ぶのか?」ということを予め決めておくことが非常に大切です。

どうして、敢えて透析・移植の話をするのか?

患者さんの中には、透析になりたくないという気持ちばかりが先行して、透析の話をすると完全に耳を塞いでシャットダウンしてしまう患者さんが一定数いらっしゃいます。中には透析が必要な状況の一歩手前になっても、透析・移植の準備をせずに、徐々に呼吸が苦しい、意識が朦朧とするなどの症状を訴えて緊急で入院して、緊急で透析をするような事例もあります。この緊急で透析するというのは非常にリスクが伴います。中々伝わらないので、私は飛行機に例えて説明しています。

透析をするというのは、飛行中の飛行機が着陸をするようなイメージを持って下さい。飛行機が安全に着率するためには、飛び立つ前にしっかり燃料を確保して、天気などを見積もって離陸して、着陸の際にはしっかり羽を広げて、車輪を出す必要があります。

透析も安全に透析を始めるために、いつ頃透析なりそうで、そのためにどのタイミングで透析の準備を開始するべきを考えておく必要があります。血液透析(けつえきとうせき)という透析の方法を行うためには、シャントという透析に必要な血管を手術で作る必要があります。手術してから、実際に血液透析をするまでに数週間以上待つ方が望ましいとも考えられています。(詳しくあとで触れます。)

緊急で透析をするのは、飛行機で例えると緊急着陸をするようなものです。燃料が無くなりそうな状態、視野が確保ができない状態、しっかり羽を広げられない状態や車輪を出せない状態で着陸するようなイメージで考えることできます。具体的には、シャントが無い場合、首の近くに走る血管に管を留置してそこから血液を取り出して透析をすることになります。この管を入れる処置には、出血、窒息などのリスクがありますし、管から感染するリスクも生じます。可能であれば行いたくないのですが、シャントがないため行わず負えないのです。

透析を先延ばしにするためにこの「腎臓内科.com」を書いていますが、「透析になった時に安全に透析を始めるための情報提供」は絶対に必要です。なるべく、遠くまで遠くまで飛行機を飛ばしたいと思っていますが、燃料が切れて墜落しないように着地地点を決めるのも大事なので今日は透析療法、移植療法についてお話をします。

なぜ、腎臓が悪くなると、透析・移植が必要になるのか?

腎臓という臓器は、ざっくり体にとって不要な物質を尿から出す働きがあります。腎臓が悪くなると、この不要な物質が体に貯まり体に悪影響を及ぼします。例えば、尿素窒素が貯まると尿毒症(にょうどくしょう)になります。尿毒症になるとだるくなったり、食欲が落ちます。更に進行すると意識が朦朧として死に至ることもあります。

また腎臓は身体の水分の調整をしています。水を一杯飲んでしまった時、尿として不要な水分を出すことが出来るのですが、腎臓が悪くなると水分を尿として出すことができなくなります。結果、身体に水が溜まって、浮腫んだり、肺に水が溜まって呼吸が苦しくなったりします。

そのために内服薬でサポートするのですが、内服薬でカバー出来なくなった場合は透析・移植が必要になります。自力の腎臓の能力+薬でカバー出来なくなった時に行う治療を腎代替療法(じんだいたいりょうほう)と言います。ネットで色々調べると出てくる言葉なので一応覚えておきましょう。言葉の通り、腎臓の替わりの役割を果たす治療法を示して、透析や移植のことを指します。

腎臓病の場合、腎臓の機能をeGFR(イージーエフアール)という採血検査結果をみて評価します。個人差もあり、透析や移植の種類によって異なるのですが、腹膜透析、移植を検討する場合はeGFR15ml/min/1.73m2以下、血液透析を検討される場合はeGFR10ml/min/1.73m2以下を目安にして準備を始めます。

腎臓が悪くなった時の治療法は主に4つの選択肢がある。

血液透析(けつえきとうせき)、腹膜透析(ふくまくとうせき)、腎移植(じんいしょく)、透析非導入の4つの選択肢があります。患者さんの年齢、生活環境、社会環境、人生観、死生観などを考えて選択していきます。この選択肢の中から患者本人、家族、主治医、医療スタッフで協議して納得いく選択をする必要があり、ゆっくり時間をかけて考えていきます。一つ一つ解説していきます。

血液透析(けつえきとうせき)

誤解を承知でざっくり簡単に伝えると血液透析は腹膜透析に比べて『医療機関お任せタイプ』というイメージを持って頂けるとわかりやすいと思います。日本で腎代替療法が必要な方の9割以上の方が血液透析を選択します。ちなみに医療関係者は血液透析のことをHD(エイチディー)と呼んでいます。

具体的には、週3回医療機関に通院して1日3-4時間程度の治療を行います。腕に2本の針を指して、血液の出し入れをして外付けのデバイスを使用して血液をキレイにします。血液の出し入れをするためには勢い良い血流が必要なため、シャントという動脈と静脈をつないだ特別な血管が必要になります。

この特別な血管を作るためには手術が必要です。もともと血管が細い人や心臓が悪い人など、患者さんによってはシャントを作らずに動脈表在化、グラフト、長期留置型カテーテルなど特別なデバイスや方法を使って血液透析が出来るようにします。

腹膜透析(ふくまくとうせき)

血液透析に比べると『自宅で自分で治療するタイプ』というイメージの治療です。日本では少数派になりますが、タイなどの国では、まず腹膜透析を最初にやってそれでもまかないきれなくなったら先程の血液透析をやるという方法をとっている国もあります。ちなみに医療関係者は腹膜透析のことをPD(ぴーでぃー)と呼び、腹膜透析をやったあとに血液透析をする考え方を「PDファースト」と言います。

腹膜透析は腹膜というお腹の臓器を取り囲む膜を使って透析をする方法です。お腹に小さな穴を空けてそこにチューブを通して、そのチューブを使って透析液をお腹の中に入れます。お腹に入っている間に、身体の不要物が身体の中から透析液側に流れ込んでいきます。数時間経ったら、その透析液を身体の外に出して、もう一度キレイな透析液を入れます。これを繰り返して身体の不要物を取り除きます。

腹膜透析の最大のメリットは『自宅で治療できる』という事です。毎日透析をする必要はありますが、医療期間には1ヶ月に1度ほどの通院で済みます。自己管理が出来る方や、透析をしながら仕事をしたい方などが腹膜透析を選択する傾向にあります。逆に、途中で治療を辞めたり、認知機能が低下していて正しく操作が出来ない可能性がある人には推奨されません。

腹膜透析の中にも2種類方法があります。日中に透析を行うCAPDと夜間に透析を行うAPDです。CAPDは日中の数時間置きに手動で透析液を出し入れします。APDは寝ている間に特別な機械をつないで自動で透析液を出し入れする方法です。どちらが良いという訳ではなく、ライフスタイルに合わせてどちらの方法を選ぶのか選択します。日中に仕事がある人はAPDを選ぶ傾向にありますが、非常時など機械が使えない時はCAPDで透析をする必要があるので結局覚えてもらう必要はあります。

腹膜透析は一生続けられるものではありません。腹膜透析は元々腎臓の力を使って透析をする方法であり、元々の腎臓の能力が徐々に低くなった場合、腹膜透析だけで不要物の除去がまかないきれなくなった時は、血液透析に切り替える必要があります。また順調でも5年程で腹膜に疲労をきたして重篤な合併症を引き起こす可能性があるので目安最長5年ほどで腹膜透析を辞めて血液透析に切り替える事になります。

*ちなみに医学的には腹膜透析と血液透析で予後は変わらないとされています。

腎移植(じんいしょく)

親族や脳死や亡くなった方の腎臓をもらい手術する方法です。日本では国民の倫理感や臓器提供制度など様々な壁があり、まだまだ少ないのですが、アメリカなどでは盛んに行われている治療です。透析はあくまで腎臓の役割を他の方法で補う方法ですが、移植は腎臓そのものを身体に入れる方法であり、非常にパワーがある治療だと思います。

移植は他人の腎臓を体内に入れるため、自分の身体がもらった腎臓を異物と認識して攻撃してしまいます。拒絶(きょぜつ)といい、拒絶を防ぐために免疫抑制薬という免疫を抑える薬を飲み続けなくてなりません。昔は、この免疫抑制薬でのコントロールが難しく、拒絶が起きて腎臓が再び廃絶したり、死に至るケースもあったのですが、近年免疫抑制剤の改良のおかげでで治療成績も改善してきた治療法です。また医療経済的にも優しいとされています。

移植には2種類あり、生体腎移植(せいたいじんいしょく)、献腎移植(けんじんいしょく)があります。

生体腎は生きている人の腎臓をもらう方法で、もらう腎臓は親族、配偶者など3親等以内に親戚に限られます。もちろん、腎臓を上げた人は2つある腎臓が1つになるので、今後の人生において腎臓を大切にしていかなくてはならないです。ここらへんの臓器をもらう側、提供する側の倫理的・精神的な側面をしっかり整えていく必要があり、移植コーディネーターなどが関わって慎重かつ確実に段取りを組み立てていきます。

献腎移植は脳死や亡くなっている人の腎臓をもらう方法ですが、日本では臓器提供数が足らず、現実問題10年以上待たなくてはなりません。(尚16歳以下、20歳以下だと優先的に臓器提供を受けるような仕組みになっています。)

透析非導入

透析患者の高齢化が進んでおり、新たな問題提議がされ、「透析をしない」という選択について考えられるようになりました。例えば90歳以上で寝たきりや認知症の腎不全患者に対して透析をすることが本人の人生、家族の負担、医療費などの社会的側面を考慮した時必ずしもプラスにならないケースがあります。

 現在の日本において緩和ケアの適応があるのは主に癌、HIV、心不全で、腎不全に対して透析をせずに、緩和ケアに切り替えるという選択はあまり一般的ではありませんでしたが、今後そういうケースが増えていくと思います。

私自身も数人透析をしないという選択をして、現在外来でなるべく苦しくならないようにする治療を行っている患者さんをみていますが、課題を感じますし、今後社会全体で取り組んでいかなくてはならない議題の一つなのではないかと思っています。

 

腎臓病の診療をする際に耳障りが悪くても透析・移植の情報提供は必要。

腎臓病の治療をしている患者さんはほとんど透析になりたくないと思って病院で診療を受けています。そんな方々に透析・移植の話をすると基本的にはあまり快く思ってくれませんし、その話を切り出すだけで一瞬で医療者と患者の関係が崩れることもあります。

けど、95%は透析を先送りにすることに頭を使ってもらいつつ、5%程度は透析になってしまった時も考えてもらわなくてはいけません。

質が悪いのは、腎臓内科医は患者さんを透析にして金を儲けようとしているという謎の陰謀論や、「〇〇をすれば腎臓は良くなる」(例:腎臓を揉めば腎臓は良くなる)みたいな論調のメディアに患者さんが流されてしまうことだと思っています。

初対面で切り出さないにしろ、どこかで情報提供が必要なのが、この透析・移植の話なので敢えて今日は透析・移植について書きました。また一つ一つ情報提供する記事を書こうと思います。

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腎臓病の食事療法についてまとめました。 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/490 Sun, 31 Mar 2019 22:03:02 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=490 腎臓内科医の森 維久郎です。腎臓病の治療において、食事の管理は非常に重要です。

食事を気をつける事で腎臓の障害を抑える事が出来、透析になる患者を減らす事が出来ます。

ちなみに食事療法の話をすると、これは食べちゃ駄目、これも食べちゃ駄目となりがちなので敢えて、これは食べて大丈夫という部分にも触れながら話を勧めていこうと思います。

先にまとめを書くとこんな感じです。

現場の腎臓内科医として、腎臓の食事について詳しく書いてみました。

水分摂取に関して

腎臓が悪くなると、尿が出なくなります。尿が出ない状態なのに、水を飲みすぎると体内に水分が溜まります。

症状として浮腫が出現したり、心臓が悪い方だと心不全になる事もあります。特に、腎臓病の方は心不全を持っている方もいらっしゃるため注意が必要です。

具体的に、どのくらい腎臓が悪くなると尿が出なくなるかというと個人差もありますが、肌感覚としてはCKDstage3(eGFR>30ml/min)の患者さんやCKD4の初期の患者さんで尿が出なくなったり、少なくなる事はあまりありません。

患者さんの中には極端な考え方を持つ方もいて、『水分は少なければ少ない程良い』と考えてしまう方もいますが、夏場に脱水で腎臓が悪くなる患者さんもいます。常識の範囲内で喉が乾いたら飲むというイメージで問題ありません。

腎臓の障害が進行して、CKDstage4の後半になってきたら、自分の体の症状と相談しながら水分量を減らしていけば良いと思います。

腎臓病でもかなり重症の患者さんもしくは心臓など他の臓器に異常がある患者さんには水分制限が必要になりますが、腎臓病の初期の患者さんには水分制限はあまり必要ないとかんがえています。

塩分摂取に関して

塩分を摂りすぎる血圧が挙がります。実際、高血圧の患者さんが入院して塩分の少ない病院食を一週間ほど食べて、適度な運動をしたりするような健康的な生活を送ると普通に血圧が10-20mmHg程下がったりします。以下のような結果が出ています。

塩分を1g/日減らすと血圧が1mmHg減少する。

J Hum Hypertens. 2002 Nov;16(11):761-70)

高血圧の方の塩分摂取は3-6g/日以下が目標です。日本人は塩分が濃い食事が大好きで10g/日以上摂取しています。

勿論人それぞれではありますが、例えば塩分13g/日の人(=私です。)が目標値6g/日まで頑張ったとすると血圧が7mmHg減少する事になります。

この血圧7mmHgがどう意味があるのかがイメージ付きづらいと思います。

過去にこんな研究結果がありました。

収縮期血圧10mmHg、拡張期血圧5mmHgの低下で脳梗塞、脳出血になるリスクが約40%低下して、心筋梗塞のなるリスクが約20%低下する。

BMJ. 2009 May 19;338:b1665)

塩分摂取を制限することは腎臓の障害を遅らせるために非常に重要です。実際患者さんと接していて、塩分制限を頑張って、しっかり血圧をコントロール出来ている方の方が、腎臓の障害を抑え込んでいる印象が肌感覚としてあります。

この1日塩分摂取量は尿検査で調べる事が出来ます。ちなみに、この尿検査を行い主治医が患者さんに1日の塩分摂取量を伝える事で患者さんが減塩を続けて腎機能障害(厳密には蛋白尿)を抑えるかもしれないとも考えられています。

(Spot Urine-guided Salt Reduction in Chronic Kidney Disease Patients)

とはいえ、塩分が大好きな日本人にとって6g/日以下の食事は物足りないと思います。そのためにテクニックが必要です。例えば、ダシを使う事で味に深みを付けて減塩食の物足りなさを補う事が可能です。

減塩は気合では達成できず、テクニックで達成するものです。長くなるので具体的なテクニックは別記事で触れようと思います。

タンパク質について

タンパク質については、腎臓病専門のガイドラインにこう記載されています。

CKDstageG3 : 0.8~1.0 g/kg/日を推奨する。

CKDstageG4~G5 : 0.6~0.8 g/kg/日が望ましい可能性がある。

タンパク質制限をすると腎臓に無駄な圧力がかからなくなり負担が減ったり(厳密には過剰濾過圧が低下する。)タンパク質から生まれる尿毒素が減る事で腎臓の負担が減ったりするなど様々なメカニズムが関係していると考えられます。

一方で過剰にタンパク質を制限すると、カロリー不足で筋肉が衰えたりするため適度なタンパク摂取が望まれます。

実はこのタンパク制限に関しては『制限した方が良い』という説と『制限しなくても良い』という説があり現在も議論が続いています。(細かい論点は違う記事で触れようと思います。)

個人的には、タンパク制限は行った方が望ましいが優先順位はそこまで高くないと考えていて、「タンパク質を摂りすぎるのは良くない」程度に考えて食事を組み立ててくださいと伝えています。

超低たんぱく食(0.3g/kg/日)の食事療法を行っている施設もあります。超低たんぱく食にはしっかりとした科学的根拠があり、低蛋白質でもしっかりカロリーが補充できるような特殊食品を使って、経験豊富な栄養士、腎臓内科医のバックアップがあれば、安全に行うことが出来て期待されています。但し、高齢な方とか痩せ型の方にはあまり積極的には行いません。

後、植物性タンパク質と動物性タンパク質であれば、植物性タンパク質の方が良いとされています。個人的には豆腐などの植物性のタンパク質、加えて魚のタンパク質はあまり制限しないように患者さんに伝えています。

カリウム摂取について

腎臓が悪くなるとカリウムという野菜類、果物、干物、海藻などに含まれているミネラルが体内に溜まります。

カリウムが体内に溜まった状態を高カリウム血症といいます。また、腎臓病患者に投与されるRAS系阻害薬(ラスケイそがいやく)という降圧薬や慢性心不全がある患者に投与されるβ阻害薬(ベーター阻害薬)というお薬にはカリウムを体内に貯める作用があります。

高カリウム血症は不整脈の原因になり心停止に繋がる可能性があるため腎臓内科医も目くじらを立てて毎回の採血でカリウムの値を測定して問題が無い事を確認します。

高カリウム血症を防ぐためには、カリウム摂取を減らすか、薬を飲むかの二種類の方法があります。カリウム摂取を減らすためには野菜をできるだけ細かく切って茹でこぼしをして食べるなどの工夫が必要です。一方で薬を飲む事で対応する事も可能なのですが、非常に不味いです・・・。嫌がる患者さんかなり多いです・・・。

医者によって色んな考え方もありますが、個人的には果物などに含まれるビタミンなどをしっかり摂取して欲しいので、食事は極力制限せずに薬を飲んでもらいたいと思っています。

ちなみに、腎臓内科や循環器科の先生は『高カリウム血症』に対して恐怖心があるので、なるべく制限しよう、制限しようと考えがちなのですが、カリウムはある程度摂取する事で血圧を下げたり、骨を強くしたりするとも言われているため、患者さんの腎機能や内服状況をみて可能であれば、なるべくカリウムが制限しない方が望ましいと思います。

個人的には、個人差もありますが、eGFR>30、CKDstageG3の患者さんで、採血でカリウムを確認して問題なさそうであれば制限しないように伝えています。

カルシウム摂取について

腎臓病患者さんがカルシウムを多く摂りすぎると血管に石灰化が生じたりする一方で、カルシウムが不足すると骨が脆くなったり、また副甲状腺という臓器が必要以上に働きすぎてリンという物質を増やして長期的な心筋梗塞などのリスクに大きな影響を与えると言われています。

具体的な摂取量は決まってはいませんが、800mg/日だと足りなくて2000mg/日だと多いのではないかと言われています。海外のガイドラインでは1500mg/日以下が望ましいと言われています。

カルシウムをしっかり摂取しようとすると、魚や牛乳をとる事になるのですが、そうするとタンパク質を多く摂取してしまうため適度に摂取して薬で補うのが望ましいとされています。ビタミンDというカルシウムの生成に関わる物質は腎臓が悪くなると少なくなるため積極的にビタミンD製剤を使用して補います。

定期採血で血清カルシウム値を8.4-10.0mg/dl辺りで維持出来ているかを確認します。

リン摂取について

腎臓病患者においてリンの値が高くなると長期的な心筋梗塞・脳梗塞などの発生率に大きく関わるため腎臓内科としてチェックしたい項目の一つです。

リンは乳製品や、肉などを多く含まれています。また添加物に多く含まれています。タンパク質が多い食品に多く含まれているためタンパク質を制限すると自然とリンの摂取量が下がると思われます。

更に加工食品などに含まれるリンの方が豆など植物タンパク質に含まれるリンよりも吸収力が高くリンの値を上げてしまうと言われています。

一応0.8-1.0g/日が推奨されております。しかし実はリンの摂取を制限しても、あまり変わらないのではないかという意見もあります。自分の患者さんの中にもリンの事を一生懸命考えて食事をしても血清リン値が下がらない患者さんもいます。

個人的には、加工食品(ハム・ソーセージ)などから植物性タンパク質への切り替えをして、それでもコントロールが付かなければ極端に食事を減らさず、内服薬でコントロールするのが良いのではないかと考えています。

カロリーと脂質について

腎臓病患者においては下記のカロリー摂取、脂質の摂取が望ましいとされています。

摂取カロリー:25-35kcal/kg/day

脂質摂取:摂取カロリーの20-30%程度

肥満は腎機能障害に関わるため肥満患者の場合はカロリーを少なめにします。また、中性脂肪が高い患者さんは、腎臓が悪くなると更に溜まりやすくなる傾向にあり、注意が必要です。

食物繊維について

食物繊維は心筋梗塞などの心血管イベントを抑制したり、糖尿病、癌に対しても保護的に作用すると言われています。腎臓病患者さんにおいて、心筋梗塞などの心血管イベントを抑制する事は非常に大切です。

また劇的な変化はないものの、腎臓自身にとっても食物繊維が良いと発表している研究もあります。ただし、食物繊維が多い食事はカリウムを含んでいる事が多いため、カリウムとの兼ね合いを見ながら可能な限り食物繊維を制限せずに食事を食べてもらってます。

実際の臨床では・・・

どれも大切な食事療法ですが、あれも駄目!これも駄目!だと食べて良いものがなくなってしまいます。個人的には、まず第一に減塩です。塩分を控えると、血圧がコントロールしやすくなります。血圧は腎機能障害に大きく関与するため非常に大切です。

個人的にはタンパク質は気持ち気をつける程度で指導しています。勿論、極端な食生活の患者さんにはしっかり指導するし、非常に意識の高い方には全てをしっかり指導します。

しかし腎臓が悪い患者さんは症状も出ていないのに、食事制限を一生しなければなりません。医者として失格かもしれませんが、自分自身もダメダメな人間で、良くダイエットも失敗しているし、運動も3日坊主です。だからこそ、なるべく緩急つけて大切な所に要点を絞り一生かけて、しっかり安定して80点取る食事療法を指導出来ればと思っています。

以下は個人的な診療の考え方です。

・減塩は頑張ってもらう。しっかりグラムを測ったり計算する。

・カロリー、脂質、食物繊維は俗に言う健康的な食事のレベルで頑張ってもらう。

・カルシウム、リンは薬で対応する。(採血で目標値を)

・カリウム、水分は採血で異常値が出たり、症状が出たら薬で対応する。

慢性腎臓病(CKD)の治療において、食事の管理は非常に重要です。食事を気をつける事で腎臓障害進行を抑える事が出来、重症化予防、透析になる患者を減らす事が出来ます。参考になれば幸いです。

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【医師が教える】腎臓が悪いときの症状 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/2595 Sun, 12 Jul 2020 07:19:18 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=2595 この記事は、健康診断などで腎臓が悪いと言われたけど、どんな症状がでるか分からないから調べてみようという方に向けた記事です。

結論から伝えると、腎臓という臓器は悪くなっても重症になるまで症状が出ないので、健康診断などで異常を指摘されたら精査をおすすめします。

腎臓が悪くなると出てくる症状

腎臓という臓器の主な役割は以下の2つです。

1:必要なものをとどめて、不要なものを尿として出す。
2:必要なホルモンを分泌する。

腎臓が悪くなるとこの2つの役割が果たせなくなり、様々な症状が出ます。

むくみ

体に不要な水分を出せなくなることで水が貯まり、むくみが出ます。

水が過剰に貯まりすぎると肺に水がたまり呼吸が苦しくなることもあります。

むくみが出る病気は、腎臓以外にも肝臓、甲状腺、心臓などの病気のこともあるので注意が必要です。

尿量低下

健康な人の尿は、約1L~2L/日ほどです。

腎臓の能力が衰えると、尿の量が減ります。

ただし、尿の量は最初は増えて、透明になっていることが多く、その後尿の量が減っていきます。

尿の量が減っている場合は、一度採血などで腎臓の状態を確認することをおすすめします。

倦怠感

腎臓から出ていく尿毒素がからだに貯まることで起きます。

ただし、尿毒素で倦怠感が起きるのは、腎臓の状態がかなり悪くなっているときです。

倦怠感が起きるのは、腎臓の他にも貧血、心不全、風邪など様々な原因があります。

貧血

腎臓は血液を作る過程で活躍するエリスロポエチンというホルモンを出します。

腎臓が悪くなると、エリスロポエチンの分泌が減り、貧血になります。

貧血になる原因は、腎臓以外に鉄分不足、ビタミンB12の不足など様々な原因があるので適宜原因を調べていく必要があります。

その他

その他、かゆみ、高血圧、骨粗鬆症など様々な症状がでます。

色々触れてきましたが、一番のポイントはこれらの症状は腎臓の障害が進行してからじゃないと出ないということです

腎臓は症状が出づらい

腎臓という臓器は沈黙の臓器です。

そのため異常が起きていても症状が出ません。

これまでの医師生活の中で、健康診断などで異常を指摘されても、症状がないから放置して、結果透析が必要になってしまう方を一杯みてきました。

腎臓の悪化を発見するためには、採血検査と、採尿検査で異常値を見つける必要があります。

採血検査ではeGFRという値を、採尿検査では尿タンパクを調べて異常があれば、更に詳しい検査を行い原因をみつけます。

腎臓の異常は、症状だけでは判断できないケースが数多く存在します。健康診断などで異常を指摘された際には、医療機関を早期に受診し「採血」「尿検査」を行うことをおすすめします。

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腎臓病にロキソニンは本当に使っていけないのか? https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/329 Sat, 13 Jan 2018 05:02:44 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=329 よく患者さんや他科の先生方から『慢性腎臓病患者にロキソニンを使ってはいけないのですか?』と質問を受けるので、今回はロキソニンと腎臓を記事にしてみます。以下のようなお悩みがある方向けです。

・腎臓が悪いんだけど、痛み止めが飲みたい!という患者さん。
・患者さんに、痛み止めがほしいと言われて困っている医療従事者の方。

ロキソニンは原則使わない方がよい

まず、添付文章には以下のように記載されています。

重篤な腎障害患者にはロキソニンは禁忌である。

ただし現場では、重篤な腎機能障害とはどの程度かが曖昧であることや、痛みを止める代案があまりなくどうしてもロキソニンを使用したくなり、実際処方されていることがあります。

今回は、敢えてどうしても使いたい時はどこまでなら使っていいのかにフォーカスを当てて話を進めていこうと思います。

ロキソニンはなぜ腎臓を悪くするか

ロキソニンは「COX(コックス)」という酵素に作用して痛みを抑えます。「COX」は炎症や痛みを引き起こす一方、胃の粘膜を守るなどの痛み以外の役割があります。

そのためロキソニンを飲むことで、副作用として一緒に胃の粘膜が荒れたり、腎臓の障害がおきると考えられています。

ロキソニンと腎臓の障害

腎臓の悪くなるパターンは「急激にわるくなるとき」、「慢性的に少しずつ悪くなるとき」の2種類あります。この2種類をしっかり分けて理解をする必要があります。

急激にわるくなるとき

急激に悪くなるのは、以下のようなメカニズムです

  1. 腎臓の入り口の血管が狭くなり、必要な血液が流れなくなる。
  2. アレルギーの反応で腎臓が障害される。

ロキソニンなどのNSAIDsという薬をつかった患者さんの約1-5%で起きるという報告もあるほどよく見られる障害です。(Am J Med. 1999 May 31;106(5B):43S-50S.)

医療の現場では、以下の5つの要素が複合的に重なることで腎機能障害が起きることが多いです。

  1. 高齢者
  2. 脱水
  3. 血中カルシウム値が高い
  4. 心不全、ネフローゼ、肝硬変がある
  5. 腎臓の血流を下げる血圧の薬をのんでいる

特に、「夏場に痛み止めを飲み、更に骨粗鬆症があってカルシウム製剤を飲んでいる、おばあちゃんが、脱水になって腎臓が悪くなった。」みたいなのが定番です。

対策としては、以下のようなものがあります。

  1. 水をしっかり飲む
  2. 血液検査、尿検査を適宜する。

ロキソニンは飲むとき、特に夏場は腎機能が悪くなる可能性があることを知り、水分補給をしっかり行う必要があります。そして定期的に採血検査などで自分の腎臓の状態を把握することが大切です。

慢性的に悪くなるとき

ロキソニンを飲むことで慢性的にジワジワ悪くなっていくパターンもあります。このパターンのメカニズムは良く分かっていません。

慢性的な障害に関しては、一生涯で何錠まで飲んで良いのかという質問を受けます。これには、一概に結論つけることはできませんが、世の中で考えられている以上に大丈夫と考えられているようです。

過去に様々な報告がありますが、まとめると以下のような報告が多いです。

・一生涯で5000錠以上投与するのは良くないかもしれない。
・一生涯で2500錠くらいなら大丈夫かもしれない。
・一気に大量に使うのはよくない。
・漠然と使用するのはよくない。

(参考文献)

  • JAMA. 2001 Jul 18;286(3):315-21.
  • Arch Intern Med. 2004 Jul 26;164(14):1519-24.
  • N Engl J Med. 1994 Dec 22;331(25):1675-9.
  • Am J Med. 2007 Mar;120(3):280.e1-7.

個人的なロキソニンの使い方

最終的に、個人的には以下のような使用をしています。

1:極力使わないようにする。
2:ほかの薬を使用する。
3:どうしても使いたいときは、脱水、薬などのチェックをして、定期的に採血、採尿をする。

ロキソニンと腎臓については、コンセンサスもなく、グレーな情報も多いので判断が難しいところではありますが、一概に『ロキソニン=腎障害』という安直な判断をするのではなく、どこまでなら使用出来そうなのかを今回調べてみました。

繰り返しますが、基本的には投与は望ましくないのでその点はご了承下さい。

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eGFR https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1070 Thu, 21 Mar 2019 09:31:33 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=1070

赤羽もり内科・腎臓内科の院長の森 維久郎といいます。

eGFRとは腎臓の能力を示す値で、腎臓のことを理解するために必ず知っておくべき検査項目です。

eGFRについて以下のような問合せをする患者さまが多いです。

健康診断でeGFRが低いと言われた

腎臓が悪くて透析になるかもしれないと言われた

eGFRは腎臓の働きを評価する項目として有名な採血項目で、eGFRが低ければ低い程腎障害の状態が悪いことを意味します。

放置すると透析が必要な状態になるので放置せずにしっかり医療機関にかかることをオススメします。

eGFRとは

eGFRとは、腎臓の糸球体(しきゅうたい)という汚い物を濾過する場所で、1分間にどのくらいの量が濾過されているかを推定した値です。

ただ何のことを言っているかよく分からないと思いますので、イメージで説明します。

eGFRはざっくり、健康な人の腎臓の腎臓を100とすると、だいたいどの程度の腎臓の能力があるかを示しています。

つまり、eGFRが低ければ低い程腎臓の障害が強いことが分かります。

この腎臓の状態を重症度で5段階に分けることが出来ます。

腎臓病のステージが進む程、濾過される量が減り、汚い物を濾過する能力が減っていることが分かります。

クレアチニンとの違い

腎臓で一番有名な採血項目「クレアチニン」という値があります。

ほんの10年前まではこのクレアチニンという値が腎臓の評価で使われていました。eGFRはざっくりこのクレアチニンの進化系だと考えて頂いて良いと思います。

クレアチニンには問題点があり、お年寄りだったり、男性だったりすると同じ値でも重症度が変わってしまいます。

そのため、『年齢』、『性別』、『血清クレアチニン値』を使って何か新しい指標がないかと考えた結果生まれたのがeGFRです。最終的に以下のような計算式でだされる値がeGFRです。

 eGFR=194× Cr (-1.094)×年齢(-0.287)(女性は×0.739) 

10年くらい前からクレアチニンではなく、eGFRを使うのが主流になりました。

医療機関にかかって行うこと

eGFRが低い時は、放置すると透析が必要な状態になるので放置せずにしっかり医療機関にかかることをオススメします。

具体的にはeGFRが60以下になると慢性腎臓病の可能性があります。

慢性腎臓病の可能性があるときは、医療機関で以下のような精査を行います。

・問診(今までのクレアチニンの値、罹っている病気、飲んでいる薬など)

・採血検査(クレアチニン・eGFRの採血、シスタチンCなど)

・尿検査(尿タンパクなど)

ポイントは、eGFRの弱点として筋肉量が多い患者さんだと、腎臓に問題がないのに異常値が出てしまうことがあります。

その際はシスタチンCという検査項目を使って別の視点から腎臓を評価します。

Q&A

「性別」と「年齢」でクレアチニンの解釈が変わるとおっしゃてましたけど、どういうことですか?

例えば、下記のように20歳男性と70歳女性の血清クレアチニン1.0では実際の腎臓の働きに大きな違いがあります。

例えば、以下の2人を比べると

20歳男性です。クレアチニン「1.0」でeGFR「82.1」です。

 

70歳女性です。クレアチニン「1.0」でeGFRは「42.4」です。

20歳男性の方だと大雑把に2倍の腎臓の能力があります。


私はeGFR=80なんですが、100点ではなく80点で少し心配です。

基本的にはeGFRは60点以下の方には正確に出せる値なのですが、eGFR80やeGFR90の方に対してはあまり正確でない事があります。基本的にはeGFR60以上であれば、『腎臓の機能は大方問題なし』という解釈をしていただければと思います。

遠慮なくお問い合わせください

赤羽もり内科・腎臓内科では、「透析予防」のために早期の発見・治療が出来るように診察させて頂いております。何かご不明なことがあれば遠慮なく、お問い合わせください。

透析予防の腎臓医療は当院にお任せください。赤羽もり内科・腎臓内科のホームページはこちら。

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腎臓とカリウム https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/555 Mon, 11 Mar 2019 13:00:30 +0000 https://xn--v6q559gj6ehpa.com/?p=555 カリウムとは

カリウムは野菜や果物に含まれるミネラルの一種です。

細胞にとって必要な圧を維持する働きや、体にある余分な塩分を体の外に出す働きがあり生命の維持のために必要な栄養素です。

多すぎても少なすぎても良くなく、腎臓病の場合は体に溜まることで時折問題になります。

高カリウム血症とは

腎臓病が進むと、尿からカリウムが排泄されなくなり、体内にカリウムが溜まり、「高カリウム血症」の状態となります。

高カリウム血症の状態が悪くなると、突然死を引き起こす不整脈・心停止の原因となります。

あくまで目安ですが、カリウムの値が6.5mEq/L以上になると心停止の危険性が上がり、心電図などで心臓に異常な脈を認めるようになります。

そのため、カリウムの値を5.5mEq/L以下にするように食事の調整をしたり、薬を飲んだりします。

高カリウム血症の症状

症状としては以下のようなものがあります。

  • 息切れ(19.8%)
  • 脱力(18.6%)
  • 意識障害(7.8%)
  • 失神(5.4%)
  • 無反応(4.2%)
  • その他(43.1%)

心電図の検査で以下のような所見がでます。

  • テント状T波(34.5%)
  • 非特異的ST変化(33.3%)
  • ST上昇(4.2%)
  • 第1度房室ブロック(16.7%)
  • 心室内伝導障害(11.3%)
  • 脚ブロック(6.0%)
  • 徐脈(4.2%)
  • 洞停止(1.8%)

*参考文献:Acad Emerg Med 2008;15:239-249

高カリウム血症の治療

高カリウム血症の治療は以下の2つがあります。

  • 食事制限
  • 内服治療

重症度が高いときは、両方が必要になることもあります。

食事制限

カリウムを多く含む食事を制限することで、カリウムが体に溜まらないようにします。

カリウムを多く含む食事として、レンコンやカボチャなどの野菜類、バナナなどの果物、干し椎茸、芋類、豆類などがあります。

これらを食事を食べるときは、茹でこぼしたり、水にさらしてカリウムを落としてから食べるようにします。

内服治療

腸でのカリウムの吸収を抑えて、体にカリウムが入らないようにする薬を飲んで治療します。

具体的には以下のような薬があります。

  • ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)
  • アーガメイトゼリー(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)
  • ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物) など

ロケルマは2020年に発売された新薬で非常に効きがよく、この薬で多くの患者さんが野菜・果物に制限が不要になっています。ただし、薬の値段がかなり高いのが難点です。

医師
医師

個人的には、野菜や果物に含まれる食物繊維やビタミンを制限してほしくないため内服治療を先に勧めています。

腎臓病の患者さんは食事の制限が多いので、なるべく制限を減らしていきたいと思っています。

最後に伝えたいこと

個人的には、カリウムを恐れるばかり野菜・果物を制限する必要のない患者さんも野菜・果物を制限しているケースが多いと感じています。

腎臓病だと一律強制に野菜・果物制限を指導する栄養士さんが多くて少し問題だと思っています。

カリウムそのものは腎臓を障害しません。逆に血圧を下げたり、骨を強くする効果も期待出来ます。

定期的に採血の値をみて、本当にカリウムを制限する必要があるかを検討する必要があります。

私見ですが、以下のような患者さんは野菜・果物を制限する必要がないケースが多いです。

  • 腎臓病のステージが3もしくは4前半の患者さん
  • 糖尿病以外が原因で起きる腎臓病の患者さん

ここらへんは、診察室で個別で考える必要があります。何かご不明な点がございましたら、遠慮なくご相談ください。

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