腎臓内科医が慢性腎臓病(CKD)患者に運動を勧める2つの理由

2018.08.08
腎臓内科医が慢性腎臓病(CKD)患者に運動を勧める2つの理由
腎臓内科医が慢性腎臓病(CKD)患者に運動を勧める2つの理由

腎臓内科医の森です。以前は慢性腎臓病(CKD)患者が運動をすると腎臓を悪くすると考えられてきました。しかしながら、近年運動が慢性腎臓病(CKD)患者にとって望ましい効用がある事が分かってきました。『腎臓リハビリテーション』という概念が誕生して、学会を上げて慢性腎臓病(CKD)の治療で積極的にリハビリテーションを取り入れていこうという動きが出ている注目されている領域です。今日は具体的な運動で得られる効用の話をします。

透析になるのを遅らせる。

私自身も驚いているのですが、近年運動を行った事で腎臓を守られているという研究結果が数件報告されるようになりました。特に一番有名なのが以下の研究結果です。

(腎臓リハビリテーション学会作成資料参照)

この研究は、リハビリテーションを行ったグループ(週3回有酸素運動を行った人達)と、そうでない患者のグループを分けて腎臓の機能の推移をみた研究です。(点線:リハビリテーション、実線:そうでない)縦軸がeGFR(腎臓の機能)を示しており、横軸の時間軸です。

前半12ヶ月は両方のグループ運動療法を行わず観察を続けて、後半の12ヶ月でリハビリテーションを行うグループは運動療法を、そうでないグループは観察を続けました。結果、点線の後半の如く、腎臓の機能を示すeGFRという値が上昇する結果となりました。

これは驚くべき結果で、基本的に腎臓の機能は一度悪くなると良くならないと言われてきたにも関わらず、今回の研究結果では良くなっていたため、世界中で話題になりました。

この研究結果だけで全ての慢性腎臓病(CKD)患者は『運動をすれば、腎臓が良くなる』と言うことは断言は出来ません。どんな患者さんにこの結果を当てはめる事が出来るのか、運動以外の要素が絡んでいたのではないか、またこの研究のようなリハビリテーションを実際の外来で行う事は医療経済的に正しい事なのかetc、様々な検討していく必要があります。一方で、少しずつ同様の研究結果が他の研究グループから出てきており、運動に対して前向きな研究結果が出ているのは間違いありません。

身体機能の衰えを防ぐ

慢性腎臓病(CKD)患者は握力、歩行速度など身体機能が低下していると言われています。原因は色々ありますが、腎臓が悪くなることで貯まる毒素が筋肉の衰えを助長したり、味覚の低下で食欲が下がる事などが考えられます。健常人に比べて身体機能が7割低下しているという報告もあります。

結果、腎臓の機能が悪ければ悪い程、フレイルという寝たきりのような状態になる可能性が数倍に上がるとも言われています。下の図の一番手前が『フレイル』の患者を示します。横軸はeGFRで腎臓の機能を示し、左に行くほど悪い事を示します。

また違う研究(下の図)では、歩行の習慣がある患者さんの方が、歩行の習慣が無い患者さんより生命予後が良い事も分かっています。(実線が歩行習慣がない人達です。歩行の習慣がある人は無い人に比べて40%程度死亡率が減ります。)

腎臓を守ろう守ろうとする余り、筋肉が衰えてしまっては本末転倒です。特に75歳以上の後期高齢者の慢性腎臓病(CKD)患者さんには口うるさく運動をするように伝えています。

私の運動に対する治療方針

私の外来では、明らかな運動をしてはいけない理由が無い限り、ドンドン運動してもらっています。ウォーキング、ゴルフ、軽いジョギングや筋トレも可能と判断したらドンドンしてもらっています。

運動を指導する前に腎臓リハビリテーションガイドラインに基づいて、運動をしてよいかを確認します。以下の評価を行い、該当項目があれば積極的に運動を勧めない事があります。

A:心筋梗塞の既往などを評価して、必要であれば運動をしながら行う心電図検査をする。

B:動脈硬化が強くて、下肢の血流が悪くないかを確認する。(血圧・脈波、足病変の有無を確認する。)

C:糖尿病の場合、低血糖、網膜症(増殖性網膜症)、自律神経障害などを評価する。

D:体液コントロール、貧血などを評価する。

E:血圧が高すぎないかを確認する。

具体的な運動に関しては、以下の3つに気をつけて行ってください。

A 有酸素運動:水泳、サイクリング、ウォーキングなどを、週3-5日程度の頻度で行います。心地よく息が切れる程度の負荷で30分程度の歩行を行います。

B 軽い筋トレ(レジスタンス運動):バンド、腕立て、可能であればダンベルを使用して、週2-3日の頻度で行います。15回程行える負荷で、患者さんの行えるセット数で行います。

C 柔軟体操:一般的なストレッチを週2-3日で行うのが望ましいです。

私の外来患者さんには万歩計を買って、歩数を図ってもらっています。iphoneのようなスマートフォンのアプリケーションで図ってもらって構いません。ちなみに、私も毎日万歩計で歩数を測定しています。患者さんの中には、私以上に歩いてドヤ顔をする方もいます。そのくらいの勢いで歩行してもらえると結果が付いてきます。歩数の目標は、今までの歩数の1000歩以上の歩数を目指してもらい、徐々に増量していきます。

 

75歳以上の後期高齢者の慢性腎臓病(CKD)患者さんには敢えて極端に説明するぐらいに強調して説明します。

『一番の目標は、腎臓とか関係無く元気に生きる事。しっかりご飯食べて、しっかり運動して下さい。血圧、血糖の事は僕が内服薬で勝手にコントロールするので、取り敢えず腎臓が悪くなっている事も忘れるくらい、元気に生活して下さい。これが最大の治療です。』と伝えて、万歩計を持たせて、血圧手帳に加えて万歩計手帳も持たせて、他の患者さんと同じように一日の歩数を測定して平均値の1000歩以上の歩数を目指してもらっています。

以前、食事に関して、75歳以上の後期高齢者には個人的に原則、蛋白制限制限をしないという話を書きました。詳しくはこちら。

以前は慢性腎臓病(CKD)患者が運動をすると腎臓を悪くすると考えられてきましたが、近年では運動をするのが主流です。日本は世界に先駆けて、腎臓リハビリテーションを勧めており、今後力を入れていく領域になると思います。何か質問があれば、受診して頂ければと思います。

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管理人情報

森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
管理人近況
  • (2018.11.04)
    ファンデリー様企画の数百人規模のイベント「ミールタイム健康フェスタ」で『生活習慣病の食事療法・運動療法の最新の知見』と題して講演させて頂きました!
  • (2018.10.27)

    開催内容はこちら!(https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1206

  • (2018.10.10)

    ジャパンヘルスケアベンチャーサミットでCKDオンラインを発表しました!

  • (2018.09.21)

    日経メディカル様に取り上げて頂きました!詳しくはこちらへ!

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  • (2018.09.06)

    週刊東洋経済2018/9/8号で少しお話させて頂きました!

     

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