高齢の腎臓病患者にタンパク質摂取を制限をしない理由をまとめました。

2018.08.04
高齢の腎臓病患者にタンパク質摂取を制限をしない理由をまとめました。
高齢の腎臓病患者にタンパク質摂取を制限をしない理由をまとめました。

慢性腎臓病(CKD)患者さんには、蛋白制限をする事で腎臓に対する障害を減らして透析を先延ばしすると言われています。CKD診療ガイドライン2018では以下のように記載されています。

CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限するを推奨する。

しかし、私は患者さんとしっかり協議した上で、希望あれば『75歳以上の患者さんには蛋白制限をしない』方針にしています。先程冒頭で触れたCKD診療ガイドライン2018でも下記のように記載されています。

画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、腎臓専門医と栄養管理士を含む医療チームの管理の下で行うのが望ましい。

それを踏まえた上で、今日は何故私が『75歳以上の慢性腎臓病(CKD)患者さんには蛋白制限をしない』方針にしているかについて触れたいと思います。最初に断っておきたいのは、これはあくまで過去の論文や、臨床現場での感覚、個人的な診療スタイルに基づいて考え抜いた結論であり、一律すべての患者さんに適しているとは全くいっていません。

また私も患者さんによって、75歳以上でも蛋白制限をする事もあります。最近多くの患者さんにこのサイトをみてもらっています。基本的には主治医の先生がいる場合は、主治医の先生の仰っている事が正しいと思いますので私の言う事より優先させて下さい。

蛋白制限に関して今までどんな科学的根拠があるのか?

実は、蛋白制限に関しては、有用であるという意見と実はあまり有用ではないという意見で分かれており、世界中で議論されています。その中で、今まで行われた研究の中で特に有名な研究がMDRD studyです。

糖尿病ではない慢性腎臓病(CKD)の患者さんに対して、蛋白制限した人達(0.58g/kg/日)と、蛋白制限をしない人達(1.3g/kg/日)で分けて経過をみました。2年後に経過をみた所、蛋白制限をした方が、腎機能障害進行が緩やかになる傾向になり、やはり蛋白制限をした方が良いのではないかという結果になりました。この時期に同様の研究が組まれて、蛋白制限がした方が良かったという結果と、あまり変わらないという研究が混在するような期間が続きました。

その後、MDRD studyの観察は12年間続いて、蛋白制限をした方が、最初の6年間は腎機能障害進行が緩やかになる傾向になりましたが、12年後にあまり変わらないという結果になりました。

この研究結果は、AJKDという腎臓内科なら全員が知っているような有名雑誌に連載されて話題になりました。一方でこの研究にはいくつかの問題点を抱えています。例えば、蛋白制限した人達が『本当に蛋白制限をしていたか』が明らかにされていない事です。蛋白制限をしていたかどうかを確認するには食事を全て覚えておくか記録していくか、尿検査もしくは便検査をする事で分かるのですが、これを12年間毎日行うのは不可能です。またこの研究では、最初の頃は定期的に蛋白質の量を調べていましたが、後半は全然行われていませんでした。

実際蛋白制限をやってみると分かるのですが、目標値を結構達成するのは非常に難しいです。過去の違う研究では『蛋白制限(0.55g/kg/日)を指導して達成できた人は27%しかいなかった』という結果が出ました。MDRDstudyでも多くの患者さんが蛋白制限が出来ていなかった可能性があります。

 

また蛋白質以外の影響も考慮しなくてはいけません。例えば、塩分です。塩分制限は腎臓を保護する作用があります。身の回りの置き換えると、肉、魚など蛋白質が多い食事って塩分多く含まれていますよね。このMDRD studyでも、蛋白制限していた人達は制限していない人達よりも、塩分摂取量が少ない可能性があり、塩分摂取量が腎障害に大きく影響した可能性があります。

MDRD studyに限らず多くの研究で、蛋白制限が本当に影響したのか、それともシンプルに塩分制限が影響したのかについては毎度議論になります。(過去にこの事を調べたインパクトのある研究があるそうなのですが、検索能力不足で辿り着けませんでした、どなたか教えてください。)蛋白制限における塩分制限について書かれた記事もKidney Internationalという腎臓の世界では有名な雑誌から出ています。

現段階では、蛋白制限が確実に腎臓を守るという事に関しては、塩分摂取みたいにコンセンサスが得られていないのが現状です。

そして、蛋白制限は確実に腎臓を守るという事を証明するには、膨大なお金、膨大な労力、膨大な時間が必要になります。食事関連の研究は、『食事遵守の証明』、『摂取量の評価法』を始め、結論を導くのに膨大なプロセスが必要です。医薬品が効果があるのかを証明するより大変です。おそらく蛋白制限に関しても先数十年結論が出ないと思います。

私はこう考えています。

結局、現段階では、『蛋白制限が意味がある派』と『蛋白制限が意味がない派』に分かれています。色んな先生の話を聞いたり、過去の論文や、臨床現場での感覚、個人的な診療スタイルに基づいて考え抜いた結論以下のように考えています。

蛋白制限は腎臓を守ると思う。一方で75歳以上に関しては、人生における食の楽しみや生きがいを失ってまで行う程の価値は無い。

 

得るものより失うものが大きい。

塩分制限程明らかであれば自信を持って推奨したい所ですが、蛋白制限に腎臓に対する効果はまだ明らかではありません。

明らかではないメリットに比べて、患者さんの労力・負担が大きすぎるような気がします。肉・魚にどれだけタンパク質が含まれているかを計算して、毎日食事を作る必要があります。蛋白制限で摂取カロリーが少なくなるため、代わりに炭水化物、脂質を増やす必要があります。

例えば白米の量を増やしたとしても、漬物や塩辛いものを増やすと塩分過多になってしまいます。75歳以上の後期高齢者の方を一括りにしてはいけませんが、毎日生活をするのが精一杯の方が多い中で、食事に関しても『あれもだめ、これもだめ』と細かく指導する事に個人的には意義を感じる事が出来ません。

中には『食事=悪』という構図がイメージで付いてしまい、ご飯を全く食べなりドンドン痩せていく患者さんがいます。しかも想像以上な頻度いるような気がします。皮肉にも筋肉量が下がると、腎臓の状態を示すクレアチニンの値は下がるのでなんとなく、腎臓が良くなったように勘違いしてしまいます。

また、精神的にも、蛋白制限を含めた食事療法でうつ状態になる可能性も示唆されています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Blood+Purif+1989%3B7%3A39-42

筋肉が衰えて寝たきりになってしまう可能性がある。

腎臓の機能が悪ければ悪いほど、フレイルという『老衰した状態、衰弱した状態』になってしまう患者さんの割合が高くなると言われています。

一番手前が『フレイル』の患者、真ん中が『フレイルになりそうな』患者を示します。横軸はeGFRといって端的にいうと『腎臓の点数』です。このグラフからはeGFRが15以下、30以下の患者さんは、数倍以上寝たきりになる可能性が上がる事が分かります。

 

一方で、高齢者に限らずしっかり運動(=歩行や軽いジョギング)をする事で腎臓を守り、透析を先送りしたりする可能性が示唆されています。

一番下の点線が、習慣的に歩行している患者さんです。一番上の実線の人と比べると、予後が良い事が分かります。

蛋白制限をすると、低栄養になったり筋肉が衰えるのかという事に関しては、関連があるという研究と関連がないとしている研究があります。個人的には、蛋白制限した分炭水化物や脂質でカロリーを補ったりして確実に蛋白質を0.6-0.8g/kg/日に抑え込む事が75歳以上の患者さんの生活において重要視するポイントにはならないと思います。

 

医者のくせに科学的根拠に基づかずに、こんな事を言うと怒られてしまいますが結局、75歳以上の後期高齢者の慢性腎臓病(CKD)患者にとって

『一杯食べて、一杯運動して、一杯休む』のが一番良い

のが一番シンプルかつ達成可能なんじゃないかと思います。診療していてこのシンプルな生活指導が意外と患者さんに刺さっていて、私の外来の一定数の患者さんが万歩計を買って、血圧手帳に一日の歩数を記録してくるようになっています。長期的に考えなくてはいけませんが、実感的には、体力もついてきているし、何より歩数という見える指標があってなんとなく楽しそうです。長期間続けるためには楽しい事が大切です。

蛋白制限の代わりに出来る事がある。

ここまでの話を聞くと蛋白制限を否定しているように見えますが、蛋白制限には一定の効果があるとは思っています。蛋白制限をしないならしないなりに、この効果を他の方法で代用する必要があると思っています。

1)体が酸性になるのを防ぐ

蛋白制限の目的としては、蛋白質由来の不揮発性酸で体が酸性になってしまう事を防ぐ事が挙げられます。進行した慢性腎臓病(CKD)では、体の酸性の物質を腎臓から排泄出来なくなります。酸性の状態は、筋肉、骨の量を減らしてしまいます。

これに対して、重曹という体をアルカリに寄せる薬を投与する事が可能です。過去に体が酸性にならないように重曹を入れる事で腎障害の進行を遅らせる事が出来たという報告もあります。

2)腸内環境を整える

腎臓と腸の関連は最近注目されている領域です。腎臓が悪くなると、様々なメカニズムで腸内細菌叢の変化、腸血流低下などが起きて便秘になりやすくなると言います。この話を掘り下げると本1冊ぐらい書けてしますのであまり触れませんが、便通管理は非常に大切です。(興味がある医療関係者は日本内科学会のこの記事が勉強になります。)

クレメジンというお薬が、腸内の毒素を吸着する効果があるとして使用されていました。一方で、最近欧米で行われた研究ではあまり効果がないのではないかという研究結果が出ました。腎臓内科医の間で使用する先生と使用しない先生が分かれますが、私は使用しない派です。

蛋白制限は腸内環境に好ましいとされているのは事実です。蛋白制限をしない代わりに適度な運動と、適度な食物繊維の摂取(←最近色々議論されているが・・・)をしっかり行ってもらい、便秘に対して必要であれば薬を投与します。個人的には、特にアミティーザという一般的に使われているお薬は腎臓を保護する作用があるかもしれないと言われており(動物実験では既に証明されています。)便秘薬を選ぶ時は副作用が無い限りアミティーザを好んで使っています。

最終的に患者さんに伝える内容は

長々と75歳以上の後期高齢者の慢性腎臓病(CKD)の患者さんに蛋白制限をしない理由を綴りましたが、勿論これを全て外来で話す事など不可能ですし、間違いなくキャパオーバーでパンクします。家族が一緒にいる時は、『塩分制限の重要性、過度に蛋白質を摂らない(少なくとも1.3g/kg/日以下にはする必要がある)』ように伝えて、シンプルにこう伝えています。

1:『基本はしっかり食べる!!そして一杯運動する!』

2:『素材の味を楽しみましょう!これで塩分制限になります!』

3:『バランス良く食べましょう!これで蛋白過剰は避けられます!』

食事制限を過度に求めると、患者さんが嫌になって『もういいわ!』ってなってしまい、塩分制限も内服も全て辞めてしまう事があります。私も過去に教科書どおり指導して、患者さんがパニックになってしまった事がありました。食事の話は一生付き合っていく話です。

食事制限は大きく求めず、塩分制限の説明を重点的に行い、一通りの話をした上で、『素材の味を楽しみましょう!』とポジティブに話をした方が意外と患者さんもついてきてくれます。

何度もお伝えしますが、この記事は私個人的な治療方針です。ここらへんに関しては論文が出るごとに診療方針もアップデートしていこうと思います。長くなりましたが75歳以上の患者さんに蛋白制限をしない理由をまとめました。

蛋白質以外全般的な話はこちらに書いてあります、ご参照下さい。

診療依頼はコチラ > 記事の一覧へ >

管理人情報

森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
管理人近況
  • (2018.11.04)
    ファンデリー様企画の数百人規模のイベント「ミールタイム健康フェスタ」で『生活習慣病の食事療法・運動療法の最新の知見』と題して講演させて頂きました!
  • (2018.10.27)

    開催内容はこちら!(https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1206

  • (2018.10.10)

    ジャパンヘルスケアベンチャーサミットでCKDオンラインを発表しました!

  • (2018.09.21)

    日経メディカル様に取り上げて頂きました!詳しくはこちらへ!

    リンク先はこちら

  • (2018.09.06)

    週刊東洋経済2018/9/8号で少しお話させて頂きました!

     

管理人近況の一覧はコチラ