腎臓の機能が悪くなると、野菜や果物を制限しなくてはならない事があります。例えば、血液透析になる直前の患者さんでは野菜や果物を含まれている『カリウム』という物質が、尿で排泄されなくなり、身体に溜まってしまいます。
この状態は高カリウム血症と言い、不整脈の原因となり突然死の原因となるため避けなければなりません。(腎臓とカリウムについてまとめました。)
高カリウム血症は、今まで元気に歩いていた人が突然心臓が止まったり、命を落とす疾患です。
医者側からしてもなんとしても避けたい疾患であり、医学生でも研修医であっても『腎臓病患者→カリウム制限(野菜、果物の制限)』という構図は頭の中にしっかりインプットされます。
少しでも腎機能障害があると、果物や野菜を控えるように言ってしまいがちです。実際、研修医時代の私は患者さんにそうやって指導していました。
しかし、日本で現在、慢性腎臓病と言われる患者さんは1300万人もいます。腎臓病の患者さん全てに一律にして野菜や果物を制限するのはナンセンスだと思います。
腎臓病の患者さんは高齢者である事が多く、食事が唯一の楽しみである方が多いのは事実であり、なるべく食事を制限せずに人生を楽しんでもらうのも医者の役割なんじゃないかなと思っています。
今日は、最近の研究を元に、本当に腎臓病患者は野菜や果物を食べてはいけないかを検証してみようと思います。
1:ベジタリアンと腎臓
ベジタリアンと腎臓の相性はあまり良くないんじゃないかと言われていました。先程お伝えしたカリウム以外にも、植物性蛋白は腸での吸収の効率が悪かったり、鉄分などが不足する可能性があるためです。
しかしながら、肉食とベジタリアンを比較した場合、ベジタリアンの方が臨床経過が良いのではないかという報告も出ているようです。
実際、ベジタリアンの方が血圧、血糖コントロールが良かったりするという意見もあります。研究としては、腎臓病の患者さんでは、植物性蛋白をとっている割合が多い人の方が死亡率が低いという結果も出ています。(Am J Kidney Dis. 2016 Mar;67(3):423-30. )
また逆に、赤身を多く食べる患者の方が腎臓に良くないのではないかという研究結果も出ています。(J Am Soc Nephrol. 2017 Jan;28(1):304-312.)
2:野菜や果物を食べない事のデメリット
野菜や果物を食べないと、確かに『高カリウム血症』を避ける事が出来ます。しかしながら、野菜、果物を含まれる栄養素を取ることが出来なくなります。
例えば、ビタミンC、ビタミンEには抗酸化作用があり種類によって微量ながらも腎臓を守る作用があるものもあります。また食物繊維があり、癌の発症を抑制したり糖尿病の進行を遅らせるとも言われています。
また、野菜は肉類などと比べて、リンや尿酸の吸収率が低いのが特徴です。リンや尿酸は腎臓病患者にとって腎障害や心筋梗塞などの原因となります。
3:野菜と果物は腎臓に良いの?
何度も話題にしている『カリウム』ですが、実は日本の高血圧ガイドラインでは、血圧を下げる効果もあると記載されています。
また植物に含まれている脂質は不飽和脂肪酸といい、肉などに含まれる飽和脂肪酸を摂るのと比較して、生命予後を良くします。
またこの不飽和脂肪酸が糖尿病による腎障害を抑える可能性も指摘されています。
4:で、結局どうすれば良いんですか?
結論は、カリウムの値次第で野菜・果物を制限は必要ないこともあるです。
腎臓病の患者さんの状態によって、大きく変わります。例えば、糖尿病による腎臓病の患者さんはカリウムが上がりやすいので注意が必要です。
どのくらい野菜や果物を制限しなければならないかは、個人差があります。定期的に採血検査での『カリウム』の値を見ながら野菜、果物の制限のタイミングを見極めていくのが良いと考えています。
個人的には、野菜・果物を制限するのではなく、野菜・果物を食べつつ「カリウム」を下げる薬を飲むことを推奨しております。
今年、「カリウム」を下げる「ロケルマ」という薬が発売されました。効果は抜群で、期待していたのですが、少し薬の値段が高いのが難点です。
腎臓の食事でお悩みの方へ
腎臓病の患者さんは一番食事のことでなやんでいます。
「あれは食べていいのか?」
「食べるものがない・・・」
など診療をしていても多くのご相談を頂きます。
当院は東京都北区赤羽の腎臓病を予防するクリニックとして、管理栄養士が在籍して食事のご相談にのらせて頂いております。
腎臓のことだけもしくは腎臓の食事のことだけご相談に来られる患者さんもいらっしゃいます。(現在の主治医の先生には引き続き通院されて頂いて問題ありません。)
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