チェルノブイリから考える被曝の被害 〜医師と被曝について考えましょう②〜

2015.09.25
チェルノブイリから考える被曝の被害 〜医師と被曝について考えましょう②〜
チェルノブイリから考える被曝の被害 〜医師と被曝について考えましょう②〜

今回はチェルノブイリ原発事故について触れてみたいと思います。以前NHKで『チェルノブイリの現状』という番組がチェルノブイリ原発事故を扱っておりました。過去の事例から福島や今後の医療被曝について考えていく事はとても大切な事なんじゃないかなと思ったので、取り上げてみようと思います。

 

以前の記事はこちらへ。

『初心者でも15分で分かる放射線と被曝の話 〜医師と被曝について考えましょう〜』

甲状腺癌患者の増加

先に結論を申し上げると、事故の現場付近の直接的な被害を除いた時、『増加が報告されているのは甲状腺癌のみ』です。実際チェルノブイリの事故では甲状腺癌が発症した子供は6000人以上であり、15人が死亡しました。(2011年)

前回の記事でも触れましたが、甲状腺癌で問題になるのは(放射性)ヨウ素です。ヨウ素甲状腺が働く上での材料となる物質であり、摂取した後甲状腺に貯蓄されます。貯蓄された放射性ヨウ素甲状腺細胞を傷ついてそれが癌化に繋がると考えられてます。

更にヨウ素は8日という短い半減期をしかない放射性物質であり、事故の急性期に対策をとれば、事故を防ぐ事が出来る放射性物質です。チェルノブイリでは多くの被害をもたらしました。4歳以下の小児の1%近くが1万mSv以上もの線量を甲状腺に浴びてしまう悲惨な結果となりました。

ヨウ素は空気の流れにのって移動しやすく様々な地域に降り注ぎます。降り注いだ地域の牧草を乳牛が摂取して、そこから牛乳が作られてそれを摂取した子供が被曝します。子供は細胞分裂が早いため被曝の影響を大きく受けると考えられています。

しかし、度々申し上げますがヨウ素半減期は8日です。1ヶ月後には16分の1まで減少、2ヶ月後には256分の1まで減少します。つまり行政が急性期2ヶ月後あたりまで食品流通の制限を行なう事で健康被害を食い止める事は可能です。

当時の政府は原発事故を数日間公表しませんでした。そのため表立った食品の規制を行なう事が出来ず、多くの子供が何も知らずに放射性ヨウ素を摂取してしまったという経緯があります。

ちなみに福島の原発事故の時はチェルノブイリの教訓を踏まえて、食品制限は厳格に行われました。その成果あり現在チェルノブイリ程の健康被害が報告されておりません。

裏に隠された被害

広島・長崎に関してはまた違う記事で触れますが、原爆事故の後平均寿命は下がるどころか、上昇するという皮肉な結果がでました。これは被曝手帳により医療のアクセスが簡単になった事が原因として考えられております。

一方、チェルノブイリ原発事故の後、ロシアやウクライナベラルーシチェルノブイリでは平均寿命が5年以上も低下しました。寿命が短くなった原因の一つとして不自由な避難生活やコミュニティー喪失により精神的ストレスを追うことになり、またソ連崩壊もあり、経済的にも追い込まれたという背景が挙げられます。

チェルノブイリ事故25年 ロシアにおける影響と後遺症の克服についての総括および展望1986-2011』では事故そのものより、事故に伴う慣れ親しんだ生活様式の破壊、経済活動の制限、精神的ストレスの方が遥かに甚大な被害を及ぼしたと総括しています。

ハーバードのイチローカワチ教授の『命の格差は止められるか』では地域コミュニティーと健康に関しての研究としてアメリカのシカゴの例を挙げた。アメリカのシカゴでは過去に熱波による天災が街を襲った際、地域付き合い文化として存在するAという町と全く地域付き合いのないBという町で死者が10倍差が出ました。

エミリー・デュルケームは研究『自殺論』で自殺の発生率と社会的な背景に関して触れた。自殺を単なる個人の心の問題ではなく社会的な背景に問題すると考え、アメリカにおいて社会との関わりが無い人はある人に比して2倍以上死亡リスクがあるという研究を根拠に結論付けました。

チェルノブイリでは必要以上の厳格な措置が取られました。年間5mSv測定される地域で強制避難が行われました。ちなみに福島での基準は20mSv以上でありチェルノブイリの事故での処置の厳格さをうかがわせます。

多くの外部の人がその土地の人の事を想って、避難を訴えかけます。しかし、『避難』=『安全』という方程式が成り立つほど話は簡単ではなくその後の精神的ストレス、生活習慣の変更による被害を考慮すると避難しない方が良い場合も存在するようです。

ちなみに広島・長崎では避難など行われませんでした。結果広島は日本一の女性の平均寿命を有しております。この事はあまり知られていませんが、その事実から考えなければならない事は多く存在しそうです。

 福島とチェルノブイリの異なる点

大きな違いの一つ目は見事に食品規制を行った事です。これは甲状腺の項で述べました。

二つ目は、爆発の規模です。原子力発電所では放射性物質が外に飛び散らないように原子炉を格納容器で囲っており、更にそれらを原子炉建屋が囲っております。

福島の事故では原子炉建屋は破壊されましたが、格納容器は残っております。一方でチェルノブイリの事故では格納容器はそもそも存在しませんでした。丸出し状態だったと思われます。

冒頭で触れたNHKの番組では『チェルノブイリの事実』→『日本の今後の予想』という構図で番組が展開されていましたが、その事故の構造の違いについてはあまり言及されていませんでした。

この前News Picksという良質な記事が流れるニュースキュレーションのメディアで『福島の避難地域はチェルノブイリの時よりも狭く、安全意識が足りない。けしからん!』といった論調の記事が流れていました。当時の無知な私は『その通りだ』とか思っていましたが、今になって思うと果たして二つの事故の構造を筆者は理解してのか少し疑問が残ります。

 

今回はチェルノブイリについて触れました。次回は広島・長崎から被曝を考えてみようと思います。

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森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
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