広島・長崎から考える被曝 〜医師と被曝について考えましょう③〜

2015.09.25
広島・長崎から考える被曝 〜医師と被曝について考えましょう③〜
広島・長崎から考える被曝 〜医師と被曝について考えましょう③〜

放射線について語る上で切っても切れないのが広島・長崎の話です。私は小さい時から歴史が好きで原爆についてはかなり興味があり母親に広島に連れてってもらいました。その時の衝撃は未だに忘れません。

あれから15年以上経ち、医者になり放射線について調べることとなり、小さい時の刷り込みのみでは見えなかった世界が再び見える事がありました。

福島の原発事故で未だ多くの人が痛みを伴う被害に合い、それでも今後原子力と向き合っていかなくてはならない現状に対して逃避する事なく真剣に話を前に進めるためにはやはり過去の悲劇を分析する必要があると思います。

 

前回までの記事はこちら

初心者でも15分で分かる放射線と被曝の話 〜医師と被曝について考えましょう〜

チェルノブイリから考える被曝の被害 〜医師と被曝について考えましょう②〜

 

実際どんな健康被害が存在したの?

小学校の時、担任の先生が『裸足のゲン』を教室に置いてくれて私は手に取り子供ながらに色々考えたのを今ふと思い出しました。皮膚がただれた小さな子供、あまりの熱傷で耐え切れなくなり川に飛び込んだ親子。原爆の悲惨さを物語る描写は衝撃的でした。今回は衝撃という感覚だけでなく実際のデーターについて今回は分析していきます。

戦後、世界中の研究者が広島・長崎に入り健康被害について研究しました。

放射線の量は爆心地では10万mSvだったと考えられています。私の前の記事で100mSvで健康被害が出始めて、4000mSvで半数の人間が死ぬと言われています。爆心地500m以降は200m毎に被曝量は半分になると言われているため、この4000mSv以下になるのは1.3km地点と考える事ができます。健康被害が出始める100mSvは爆心地より2.5km地点程度と考える事が出来ます。

原爆で放射線の被害をもろに受けるのは爆心地約3kmの人達だったと考える事が出来ます。

広島市は当時人口35万程度で、10万人以上に人が亡くなったと言われております。爆心地約3kmに10万人の人が存在する訳もなく、結論原爆の一番の死因の原因は『爆風』と『熱傷』と考えるべきでしょう。

まず忘れがちなのがこの点で『放射能』、『放射能』と被曝に対して極度の恐怖感を覚えがちですが、一番怖いのは『爆風』と『熱傷』です。(思慮深さに欠ける、私は皮膚がただれたりするのは被曝のせいとか考えがちでしたが、よく考えればこれも『熱傷』が原因です。)ちなみに、人間が半分死んでしまう4000mSv以上の領域にあたる1.2km以内の死因の内訳は爆風による外傷20%、被曝20%、熱傷60%でした。

発癌については、確認された事は以下の2点です。

 

  1. 100mSv以上の被曝でリスクが上昇する事
  2. 子供の白血病の発症数は数倍に上昇する事

逆に確認されなかった事は以下の3点です。

 

  1. 親が被曝している時の遺伝的影響
  2. 100mSv以下の被曝での発癌のリスク上昇
  3. 原爆投下時は広島におらず、その後帰ってきた人達の被曝による健康被害

今までの私の記事もこの事実とチェルノブイリの調査を元に作成された論文などから引用しております。

隠されたもう一つの真実

仮に原爆が爆発後数年経っても、人類の健康に与えると仮定すると現在の広島の平均寿命は他の都市より低くなっているはずです。ところが、広島市の女性の平均寿命はなんと日本一です。これには一つ原因があると考えられます。

戦後、広島市長崎市民を始めとして被曝した多くの人達に『被曝手帳』というものが配布されて、無料で医療を受ける事が出来るようになりました。それにより医療のアクセスが簡単になり、早期発見、早期治療を行う事が出来たためと考えられています。

また、特筆すべき事は、『誰も避難しなかった事』です。チェルノブイリの記事でも申し上げましたが、被曝そのものより、被曝により避難を余儀なくされて、コミュニティーを失い、ストレス、精神的負担によりアルコール、飲酒、食生活の乱れの件数が増えて寿命が低下するという報告されています。チェルノブイリでは平均寿命が5年以上短縮したという報告がされております。

原爆と原発の違い

原子力に関しての私達にとっての最大の関心事はやはり福島でしょう。無知な私は福島の原発事故はまるで『福島に原爆が落ちた』のと同じような印象を受けました。

結論から言うと、原爆と原発は全く違います。言葉が似ているためセンセーショナルになってしまいがちですが、その違いを明らかにする必要があります。

まず、原子力といえばウランですね。中学の時にやりました。ウランは様々な同位体があります。自然界に存在する99.3%がウラン238です。残り0.7%がウラン235です。自然界に存在するという事は安定している状態と言う事ができます。自然界の多くの物質は安定している時にエネルギーを多く持たない状態になります。反対に不安定な状態な時は多くのエネルギーを放出して、安定した状態になろうとします。

これがウランにも当てはまり、人為的に安定したウラン235中性子をぶつけてウラン236にすると急に大量のエネルギーが発生します。(厳密にいうとここから核分裂が起きます。)

これがざっくりした原子力のメカニズムと言えます。原子力爆弾を作るためには、自然界に0.7%しか存在しないウラン235を遠心分離して濃縮される必要があります。イラク戦争の時にアメリカにイラクが指摘されていたのはこの遠心分離をする施設を作っていないかという点です。

原子力発電においてはこのウラン235の濃縮が原子力爆弾よりも圧倒的に低いため、仮に爆発しても同じようなエネルギーや放射性物質を生みません。『福島に原爆が落ちた』のと同じような印象を受けたという私の感覚は科学的な根拠と異なっていたようです。

 

私達の先祖が、受けた戦争最大の悲劇について今回分析を行いました。実際、このような形で調べたのははじめてで新たな発見が多かったです。歴史というのは、勝者が作る物というのが私の考えです。第二次世界大戦で日本は負けました。歴史は勝者が作るとすれば、アメリカによる原爆投下は歴史的に正義だったとされます。

医療の現場では放射線治療、放射線検査など様々な方面で放射線のテクノロジーが使用されています。しかし、多くの医師(私の周りに放射線について説明できる人はあまりいませんでした。)はその放射線の扱いについて勉強する機会をあまり与えられてないと思います。日本という歴史上、放射線に関してセンセーショナルになる国で医療をしており身近であるにも関わらず、正しい情報を処理できないのは役不足な気がします。

原発事故についてコメントすると多くの批判を受けがちです。『現地の人間の気持ちを考えろ』とか『無責任な事を言うな』とか四方八方で叩かれてしまいます。その批判はある種正解であり、原子力工学に関して、全てを説明できるデーターがこの世の中に存在しないため(広島、長崎、チェルノブイリ、福島ぐらいしかない)、全てのコメントや理論が不正確であり、もしかすると自分の理論が間違っている可能性も高いため言及しづらいと思います。

しかしながら、私達の身の回りにはすでにデーターが存在しておりそこからしっかり学び、しっかりと考え持つ事はとても大切な気がしました。少し長くなりましたが、次はこの流れで原子力は本当に必要なのかという点を一市民として考えてみました。

エネルギー問題と原子力発電 〜医師と被曝について考えましょう④

 

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腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
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