イギリスと日本の医療保険制度の違い

2018.01.13
イギリスと日本の医療保険制度の違い
イギリスと日本の医療保険制度の違い

腎臓内科医の森 維久郎です。7年前に学生時代に発表したプラハの学会で知り合ったイギリスの家庭医の所に研修に行きました。イギリスと日本の医療の仕組みは似ていると言われています。特に全国民が個人収入の影響をほとんど受けずに医療を受ける事が出来るという点で類似していると言われています。しかし、イギリスで実習した時に多少なりと違いを感じて、この違いを明らかにする事で日本の問題点を外から見る事が出来ると投じながら感じましていました。

あれから月日が流れて、たまたま行った勉強会でイギリスのNHS:national health serviceいう制度についてを学ぶ機会があったためイギリスの保険制度についてまとめてみました。

日本、イギリス、アメリカを比べた時、完全に民間による保険を制度化しているのがアメリカであり自己負担額10割。日本とイギリスでは公的機関が保険制度を担っています。日本は自己負担額3割、イギリスはなんと自己負担額がありません。 日本とイギリスは公的機関が保険制度を担っているという点は似ているのですが、違う点も多いため著そうと思います。

無料か無料でないかの違い

当たり前のように聞こえて、実は大きな違いがあるのがこの点です。私達日本人が街を歩いていて、道に迷ったら警察に道を聞くかのように、火事があったら消防車を呼ぶかのように、病気になれば病院に行く感覚であろう。少しでも自己負担が有るのか、無いのかには大きな違いがあると思います。日本人とイギリスで大きな認識の差があるようです。

 『保険者』と『提供者』の関係性の違い

イギリスの場合はNHSがヘルスケア計画を作成して、GPというイギリスのかかりつけ医をその計画に組み込むが可能です。簡単に言うと、NHSという組織がGPを雇用している形をとっています。保険制度もNHSが作成に関わっています。

『保険者』=『提供者』がイギリスの医療の構図です。

それに対して、日本の場合は『保険者』は健保、国保、後期高齢者保健みたいな組織があり、一方で『提供者』は病院であり、病院が医師を雇っている。

『保険者』≠『提供者』が日本の医療の構図です。

この構図の違いで日本とイギリスでメリット、デメリットの種類が異なります。

『保険者』=『提供者』のイギリス医療の利点

端的に言うと無駄がないの一言です。

保険制度を作っている組織が、医療を提供しているため、国の制度を現場にダイレクトに反映できる。無駄な摺り合わせも必要ないし、現場を管理しやすいのが特徴です。

それに対して、日本の場合は『保険者』と『提供者』のせめぎ合いが生じます。例えば、Aという50万円の手術があるとすると、この手術は『保険者』からすると支出であり、損になります。一方で病院などの『提供者』からすると収入であり、利益になります。

Aという手術が50万から60万になると『保険者』は悲しみ、『提供者』は喜びます。Bという40万の手術で良いのにも関わらず、60万でAという手術を行うと、『保険者』は損をして、『提供者』は得をします。こんな事が起きないように、日本では『保険者』は『提供者』が無駄に高額な手術を行わないか見張ったりします。

この見張ったりする組織を運営をしたりコストや、ちょろまかしてないかを報告する作業は根本的に無駄であり、イギリスのような保険制度の方が無駄がないのが特徴です。

『保険者』=『提供者』のイギリス医療の短所

端的に言うと、『保険者』と『提供者』がダッグを組んで悪い事を企てる恐れがあります。

イギリスの『保険者』が本気を出して、医療費という支出を減らしたかった場合、『全く治療をしない』という手段をとることが出来ます。現場の医師などの『提供者』も困りません。(税金から給料をもらっている??)患者さんからすると不利益を被る可能性があります。一方日本の場合、医療費を減らそうとすると、ご存知の通り医師会などの『提供者』から猛反対を喰らいます。しかしこの猛反対のお陰で日本国民が医療に簡単にアクセス出来る可能性もあります。

イギリスではこの問題点に対して、キャメロン首相を主導に大きな議論を行ないました。結果、LINksという国民の意見を集めて制度の欠点を補う対応策をたてるネットワークを作って、当初は機能して高い評価を受けていたようである。

イギリス、日本の共通の問題点

似て非なるイギリス、日本の医療ですが、現在抱えている問題は似ているようです。イギリスの問題点を触れてみます。

  1. 医療技術の進歩
  2. 移民、貧富の格差などによる医療の多様化

まず第一に、医療技術が進歩した事が挙げられます。例えば薬の値段が格段に上がりました。日本でも糖尿病一つとっても、昔使われていたメトホルミン、アマリールなどの薬と比較して、トラゼンタなどのDDP4阻害薬やビデュリオンなどのGLP1阻害薬は値段が高くなります。更に高齢者が増えたと同時に医療技術に進歩で高齢者でも高度な手術を受ける事が出来るようになりました。

医療費が増大したにも関わらず、日本もイギリスもそれに応えるだけの経済成長をしておらず、税金というIn<医療費というOutの構図が続いているが現状です。

第二に、イギリスの制度が誕生したのは半年前で、人々の生活は多様化しました。イギリスの場合、特に移民の存在は医療にも大きく影響を与えています。治療の方法や考え方が全く違う人種が、イギリスの一つの保険制度の元で医療を受ける事が困難になりつつあるそうです。また貧富の格差や田舎都会の差も大きな影響を与えています。

イギリスで地方分権を行い解決を図ったり、様々な政策を打ち立てて解決に取り組んでいますが、中々上手く言っていないようです。

イギリスから日本の医療を考える

評論家やニュースはイギリスの例を取り上げて日本の医療を語る事を好む傾向にあります。例えば、『透析患者さんに年齢制限を設ける』という議論があります。この議論を成熟したものにするためには『保険者』と『提供者』が同じであるイギリスと、『保険者』と『提供者』が違う日本で構造が違う事をまず明確にしなければなりません。この構造に違いで享受しているメリット、デメリットを明らかにしないと生産性をもった話が出来ないと思います。

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管理人情報

森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
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