慢性腎臓病(CKD)患者に本当にロキソニンを使ってはいけないのか?

2018.01.13
慢性腎臓病(CKD)患者に本当にロキソニンを使ってはいけないのか?
慢性腎臓病(CKD)患者に本当にロキソニンを使ってはいけないのか?

よく患者さんや他科の先生方から『慢性腎臓病患者にロキソニンを使ってはいけないのですか?』と質問を受けるので、今回はロキソニンと腎臓を記事にしてみます。尚、一般的にロキソニンを含むNSAIDsという薬は腎障害を起こす可能性が報告されております。添付文章を見てみると、『重篤な腎障害患者には禁忌である。』と記載しています。基本的には投与は望ましくないというのが模範解答です。

しかしながら、慢性腎臓病患者は高齢である事も多く、骨、筋肉が脆い事が多いためロキソニンを含めた鎮痛剤を使いたいシチュエーションが多々あるのが現状です。ネットで調べると責任が取れないメディアの記事で『ロキソニン駄目!』としか書いていません。なので腎臓内科医として、敢えて実際どうしても使いたい時はどこまでなら使っていいのかにフォーカスを当てて話を進めていこうと思います。(基本的には投与は望ましくないのでご了承下さい。)

以後NSAIDsという表現を使います。ロキソニンなどの特定の痛み止めを総称しています。

NSAIDsとはどんなお薬なのか?(読み飛ばし可能。)

ロキソニンは凄く便利はお薬です。僕も学生時代にラグビーをやっていた時、多様していました。この痛みを抑える作用は『COX』という酵素に作用して生まれます。シクロ・・・という名前なのですが、一般の方にカタカナの羅列を使わないのが私のモットーなので、使わず医療者の間でも使われる『コックス』と呼び方で行きます。

『COX』の中で『COX2』という酵素があり、炎症や痛みを引き起こします。この『COX2』を抑える事で炎症や痛みを抑えるのがこの薬の作用です。この『COX』にはもう一種類あって『COX1』という酵素があります。『COX1』は胃の粘膜を守る作用があるのですがロキソニンは『COX1』も一緒に抑えるので、使用しすぎると副作用として胃潰瘍になります。なので『COX2』だけ抑える事が出来ると良いなと思って、作られたのがセレコックスなどの選択的COX2阻害薬です。

こんな感じで、痛みをとるための作用が逆に仇となり、他の臓器に作用する事があります。腎臓のその内の1つです。『COX』が抑え込まれて腎障害が起きる事があるため慢性腎臓病の患者では特にNSAIDsが使用しづらくなります。

NSAIDsと急性腎障害との関係

腎臓の悪くなるパターンは2種類あり、急激に悪くなる場合と、ジワジワ悪くなる場合があります。NSAIDsの場合は厳密には違いますが、急減に悪くなった場合は治療すると戻る事もありますが、ジワジワ悪くなる場合は戻らない事が多いというイメージで大丈夫です。この章では急激に悪くなったパターンの話をします。急性腎障害といいますこの場合、以下の機序で腎臓が障害されます。

①:腎臓の血管が収縮して、必要な血液が流れきらなくなる。(厳密には輸入細動脈が収縮してeGFRが低下する。)

②:アレルギー性反応で腎臓が障害される。(厳密には尿細管間質障害が起きる。)

急性腎障害に関して、どのくらいの頻度で起きるのかという話が今から20年ほど前に出た論文に記載されています。

 NSAIDsを使用したすべての患者の1-5%で急性腎障害発症する。( 1999 May 31;106(5B):43S-50S.)

 

実際、整形外科で万全とロキソニンを処方されていた患者さんで腎臓が悪くなって腎臓内科に良く紹介状が届きます。1-5%の頻度と記載がありますが、だいたいどんな患者さんかは決まっています。以下の5パターンが代表的です。

①:高齢慢性腎臓病患者(CKD stage3以上)

②:脱水になっている患者

③:血中カルシウム値が高い患者

④:心不全、ネフローゼ、肝硬変の患者

⑤:RA系阻害薬

『夏場に整形外科で痛み止めをもらい、骨粗鬆症があってカルシウム製剤を飲んでいる、高血圧があるおばあちゃんが、畑仕事で脱水になって腎臓が悪くなった。』というのが定番だと思って下さい。このようなリスクを多く存在する患者さんには極力投与しないようにします。一方でどうしても使用したい時があるのも事実なので、その場合は極力飲水をとるなどリスクを回避しながら使用して、採血、採尿でクレアチニンや尿所見をフォローします。残念ながら、どのくらい量でどのくらいの期間なら大丈夫なのかという事は明らかになっておりません。

急性の障害であれば、大方はロキソニンを中止して脱水を補正すると改善していきます。

NSAIDsと慢性的な腎障害の関係

一方で、ジワジワ悪くなっていくパターンもあります。この場合はNSAIDsを中止しても障害が戻りきらない事も多く、透析になる事もあります。このパターンの障害のメカニズムは良く分かっていません。慢性腎臓病の患者にロキソニンを投与すると、透析になってしまうかもしれないという恐れから投与しづらいという他科の先生方からの質問を多く頂きます。

 

理想は腎臓が悪い患者に無駄なロキソニン投与はするべきではないという前提で話をすると、『意外と投与しても大丈夫な可能性がある』というのが結論です。

以下の2つの論文があります。

①:健康な男性に対して使用する場合、NSAIDs生涯2500錠以上投与しても慢性的な腎障害は起こらない。( 2001 Jul 18;286(3):315-21.)

②:健康な男性だけでなく女性に関しても研究されており、

女性に使用する場合、NSAIDsを高用量で使用した時と慢性的な腎障害に明らかな相関は認めない。( 2004 Jul 26;164(14):1519-24.)

この2つの論文だけで安直に大丈夫と言い切ってはいけません。高齢患者に限ったらどうなのか、慢性腎臓病stageが進んでいる患者ではどうなのか、そもそも高用量って何錠なのかなど、様々な検討するべき点はあります。しかしながら、生涯で1000錠くらい飲んでも一般的に大丈夫そうという結果は驚きの結果です。一方でこんな研究結果もあります。

③:65歳未満に対して使用する場合、NSAIDsによって末期腎不全に至るのは生涯で5000錠以上内服した時である。( 1994 Dec 22;331(25):1675-9.)

65歳未満に限ると、5000錠までがまずいですよーという結果が出ており、完全に安全な訳ではなさそうという結果が示されました。高齢者においてはこんな結果もあります。

④慢性腎臓病の高齢患者においてはロキソニンを大量に使うと慢性的な腎障害を起こす。( 2007 Mar;120(3):280.e1-7.)

 

その他にも◯◯病患者では使って良い、△△病患者では使っていけないという研究など挙げたらキリが無いほど多くの研究があります。

どの論文も最終的には、『ロキソニンを大量に使用すると慢性的な腎障害を起こす可能性がある。ある程度量であれば、慢性的障害という観点から使用可能である。しかし漫然と投与するのは避けたほうが良い』と書かれています。

で、結局NSAIDsをどうやって使えば良いのか?

色々長くなりましたが、私自身はこういうアドバイスにしています。

極力NSAIDsの使用を避けるようにするが、痛くてどうしようもない場合は少しなら可能として使用する。その場合は脱水などのリスクは出来るだけ避ける。

可能であればアスピリン製剤など腎臓に影響の少ない薬剤(バファリンとかで良いならバファリン)を使用する。

定期的に使用する場合は、定期的に採血で腎臓を評価する。

 

ロキソニン、腎臓で調べると、よく分からないWebメディアが、恐怖を煽る記事を書きまくっています。しかし実際、医学の世界の研究の結果からは、腎臓が悪くても患者さんによっては注意深く使用すれば使用出来るとも解釈出来ます。どのくらいの量なら大丈夫かがはっきり分かっていないため、『大丈夫!』って言いきれないのが難点ですが、『慢性腎臓病初期の人が祝日にぎっくり腰になり、整形外科が営業する平日まで持ちこたえるために少量で使う程度であれば許容出来る』と思います。

 

この記事を書くと友人に言ったら、『お前の記事見て、誰かが腎障害になったらどうすんだよ!』って止められました。確かに、ロキソニンと腎障害の関係において、はっきりしていない部分が多く明言出来ないのは事実です。

しかし、そういうグレーな情報をどのように解釈して判断を下す事は、責任逃れのメディアとか製薬会社とか人工知能には出来ず、医者にしか出来ません。『◯◯先生にロキソニンを処方されたんですけど、インターネットで調べたら腎臓悪くなるって書いてありました!これはどういう事なんですか!?』と聞かれる事もあり、『ロキソニン=腎障害』という安直なWeb上の構図で担当患者さんが混乱しないように書きました。

腎臓が悪くなる事を恐れて、痛み止めを処方されず、どんどん衰弱しきってしまう高齢者もいるのも事実です。だからこそ敢えて、どこまでなら使用出来そうなのかにフォーカスを絞って話を進めました。何度も言いますが、基本的には投与は望ましくないのでその点はご了承下さい。

この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいるのでリンクを貼っておきます。

診療依頼はコチラ > 記事の一覧へ >

管理人情報

森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
管理人近況
  • (2018.11.04)
    ファンデリー様企画の数百人規模のイベント「ミールタイム健康フェスタ」で『生活習慣病の食事療法・運動療法の最新の知見』と題して講演させて頂きました!
  • (2018.10.27)

    開催内容はこちら!(https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1206

  • (2018.10.10)

    ジャパンヘルスケアベンチャーサミットでCKDオンラインを発表しました!

  • (2018.09.21)

    日経メディカル様に取り上げて頂きました!詳しくはこちらへ!

    リンク先はこちら

  • (2018.09.06)

    週刊東洋経済2018/9/8号で少しお話させて頂きました!

     

管理人近況の一覧はコチラ