どんな患者も診療する医者は本当に良い医者なのか?~医師の視点~

2017.12.17
どんな患者も診療する医者は本当に良い医者なのか?~医師の視点~
どんな患者も診療する医者は本当に良い医者なのか?~医師の視点~

腎臓内科医森 維久郎です。今日は腎臓とは全く関係無い事を書こうと思います。内容は『どんな患者も診療する医者は本当に良い医者なのか?』です。私は腎臓内科医として普段から診療しているわけですが、腎臓以外の診療を求められる事が多くあります。風邪、感染症、心臓の事などならまだしも、認知症を診てほしい、皮疹を診てほしいと言われる事も多々あります。このように医者は自分の専門外の診療を患者に求められる事があります。

 

そんな時に医者が取る行動は大まかに3つと思われます。

① なんとなく知っている知識をフル動員させて、やり過ごす。

② 診療室から離れて、参考書を引っ張り出して、答えを見つける。

③ 分かりませんと言って、他の医師に投げる。

 

この話を医療関係者以外に言うと驚かれますが、医者が自信を持って診療出来る範囲は限られています。

勿論、『このまま放っておいたら危険だ』という緊急性の判断は、初期研修の内にトレーニングを受けるためある程度の診療能力は担保されます。また風邪、高血圧、高脂血症などの比較的良く見るシンプルな診療であればある程度の質は担保出来ると思います。(実は奥深いのですが・・・。)しかし、1型糖尿病、認知症、不整脈、精神疾患など、腎臓で言えば蛋白尿、血尿、進行した慢性腎臓病、腎機能障害などの診療で専門外の医者が自信を持って診療出来る事は少ないのではないかと思います。

 

世間は、医者は医学の事をなんでも知っていると思っており、当然のように医者に求めます。分からないと答えると『医者なのに何で分からないんだ』と憤慨する患者さんも結構いるが現状です。

 

また大学の授業などでも、『患者を断らない』『なんでも診る』事を美しい言葉のように学生に伝えて、医学生も一度は『なんでも診れる医者』を目指します。僕自身、大学が田舎の大学であったこともあり、『地域に自分しか医者がいない』という状況で診療されている先生方が多く、恐らくそんな先生方の姿に影響を受けてつい最近まで『なんでも診れる医者』に憧れていました。

 

初期研修が終わり、自分の裁量で診療ができるようになった最初の頃は、腎臓以外の事も引き受けて、参考書を読んだり、論文を読んだり、知り合いの専門医に聞きながら診療していたし、それが正しい事だと思っていました。前述した②の診療をしていた訳です。

 

②の診療をすると、患者さんから喜ばれます。なんでも知っている名医と評判が上がるでしょう。(僕は言われた事はありませんが・・・。)

しかし、外来を持ち始めて3ヶ月くらい経ちして考え方が変わる出来事がありました。(フィクションです。)

 

 

若い男性で、健康診断で尿潜血が続いているという事で僕の外来に来ました。尿潜血は、肉眼で見えない事もあり、本人も気づかない事が多いのですが、腎臓の障害を示唆している可能性もあります。(詳細はこちらへ)前医では、『蛋白尿が出ていないから大丈夫と言われた。』との事で、診療して確かに蛋白尿は出ていませんでした。

 

実は、『蛋白尿で出ていない尿潜血を精査するか否か』という判断は腎臓内科医の間でも意見が分かれます。特に治療をする必要のない場合もあれば、IgA腎症のように予後が楽観視できない病気の事もあります。蛋白尿が出ていれば腎生検という積極的な検査をした方が良いのは間違いないのですが、蛋白尿が出ていないと迷います。

 

ガイドラインという医者の教科書みたいな本には、蛋白尿0.5g/日以上であれば積極的な精査をしましょうと記載されていますが、実際の診療では、年齢、症状、本人の希望、家族の希望なども聞いて判断します。ここらへんの決断は以前行っていた②の診療では出来ないと思います。

 

結果、その方は積極的な精査をしてIgA腎症の診断に至り、障害が強いため積極的な治療をしています。

 

ちなみに、その前医の先生は、非常に診療能力が高く、地域でも信頼されており、他の医師からも一目置かれている先生です。そんな優秀な先生ですら、専門外の診療、しかも腎臓という医療の中でマイナーな領域の診療となると専門医に委ねてしまった方が良かったケースがあるのかと痛感し、自分も腎臓以外で同じような事をしている可能性があると思い、考え方を改めるきっかけになりました。以降、腎臓に関しては、もっと早く見つけて、早く治療をすれば、透析にならなかったのではないかという症例が重なり、考え方に変化が出ました。

 

 

今では、自分の身に置き換えて、専門外の診療を求められた場合、分からない事を分かりませんと言って、自分の専門外の事は沸点を下げて積極的に専門医に紹介するようにしています。時折、患者さんに『なんで医者なのに分からないんだ!』と怒られる事もありますが、『希望があれば私が診療しますし、希望にお応えしたいと思いますが、一方で専門の先生が見た方が良い案件なので紹介します。』と伝えています。

 

分からない事を分からないと患者さんに伝える事は本当に勇気がいります。僕は勤務医だからまだしも、これが開業医になると更に勇気がいります。

 

なんでも診療する医師を、世間は求め、多くの医師がそれを目指す傾向にあります。

しかし、私個人としては『どんな患者でも診療する医者』より『周りに知り合いの医者が一杯いて謙虚に紹介する医者』の方が良い医者なのではないかと思いますし、自分はそうでありたいと思います。

 

 

ラーメンはラーメン屋で、カレーはカレー屋で食べるのが一番満足出来ると思います。両方料理人であり、ラーメン屋でカレーを出すことも出来るし、カレー屋でラーメンを出す事もできます。しかし、美味しいカレー屋を紹介するラーメン屋でありたいと思います。

 

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管理人情報

森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
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