慢性腎臓病(CKD)患者にSGLT-2阻害薬は使ってよいのか?

2017.06.04
慢性腎臓病(CKD)患者にSGLT-2阻害薬は使ってよいのか?
慢性腎臓病(CKD)患者にSGLT-2阻害薬は使ってよいのか?

糖尿病の治療においてSGLT-2阻害薬という糖尿病薬が話題を呼んでいます。ここ数年で多くの論文が出されて、糖尿病薬の治療法に多く変化をもたらしました。更にこのSGLT-2阻害薬の内2.3種類の薬剤に腎臓を守る作用がある事があり大きな話題を呼びました。現在、腎不全患者において有効な治療はRAS系阻害薬という降圧薬を投与する事以外これといったものがありませんでした。その状況で頭角を現したSGLT-2阻害薬は腎臓内科医としても注目に値する治療法となっています。

今回、SGLT-2阻害薬について腎臓内科の目線から、まとめてみました。尚、この記事は患者さんというよりは、研修医辺りを対象に書いており、私が外来で担当している患者さんやコメディカルの皆様方には少し専門的かもしれません。論文ベースで話を進めていこうと思います。

SGLT-2阻害薬が頭角を現した論文

Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.

SGLT-2阻害薬(商品薬:ジャディアンス)の心血管イベントについて調べた論文です。PECOは以下です。

  P:心血管リスクのある2型糖尿病患者(18歳以上、BMI45以下、eGFR30以上)

E:ジャディアンス10mg、ジャディアンス25mg内服 (3年程の観察期間)

C:プラセボ

O:心血管死、nonfatalな心筋梗塞・脳卒中

世界中にインパクトを与えた論文。これまでSGLT-2阻害薬の作用機序がユニークで副作用が懸念されていたが、合併症に関しては性器感染症以外は目立った合併症も少なく比較的安全性が担保された上で、心血管イベントを抑制した事が証明されたためインパクトが大きかったと予想されます。また血糖を下げる以外での何らかのメカニズムが心血管イベント抑制に寄与している可能性がありそのユニークも注目されている。一方で治療経過中のHbA1cにジャディアンス群とプラセボ群で大きな差があり、SGLT-2阻害薬そのものではなくHbA1cの差が心血管イベントに影響した可能性は否定できません。

対象患者は、一度心血管イベントを起こした患者に限定されており、既にメトホルミン、スタチンが入った患者が多くを占めている。しかも我々日本人からするとBMIが高めの方が多い。(しかしアジア人のサブ解析でも効果は認められている。)この論文を読んで安直に1剤目からSGLT-2阻害薬を使用し始めた人もいるのですが、この論文はあくまで『一度心血管イベントを起こして、既にある程度内服加療されている患者さんに対する更なる一手』として使用したら良い結果が出た訳なので、そこら辺は注意が必要と思われる。

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SGLT-2阻害薬は腎臓に効果ありますよ!という論文

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.

前述した論文を、腎臓の観点から更に解析し直した論文です。腎臓内科医としてはこちらの方が気になる論文です。PECOは下記の如く。

P:心血管リスクのある2型糖尿病患者(18歳以上、BMI45以下、eGFR30以上)

E:ジャディアンス10mg、ジャディアンス25mg内服 (3年程の観察期間)

C:プラセボ

O:顕性アルブミン尿、クレアチニン2倍化、透析導入、アルブミン尿の出現

この論文の結果で一番インパクトがあったのは、RAS系阻害薬がすでに入っている段階でSGLT-2阻害薬を使用した所、著明に腎予後がよくなるという結果が出た事だと思われます。CKDの治療のおいて、現段階で腎保護作用がある薬でメインストリームに立つのはRAS系阻害薬のみで、ここにSGLT-2阻害薬も加わる可能性が生じて話題を生みました。もしかしたらRAS系阻害薬が高血圧が無くても積極的に使われるように、SGLT-2阻害薬も糖尿病が無くても使用される事が将来あるかもしれません。

しかしここでも前回の論文と同じで治療経過中のHbA1cに差があり、HbA1cの差が腎臓に影響を与えた可能性は引き続き残る。しかし過去のNEJMの違う論文で微量アルブミン尿が出ている2型糖尿病患者に限っていえば8年程度で厳格の血糖コントロールをしてもあまり腎予後が得られなかったという結果を残している論文もあり、やはり単純な血糖コントロール以外のメカニズムが関わっている可能性があるのではないかと言われています。

筆者はNaの再吸収阻害などを引き合いに出しているが、賛否両論があり、イマイチこれと言った決定的な機序は見つかっていない。また新規のアルブミン尿の出現において有意差が出なかったのも興味深い。気になる副作用は性感染症がプラセボより増えている程度であり、予想されたような低血糖、AKIなど合併症は有意差を認めなかった。

SGLT-2阻害薬の論文に関わった偉い人がまとめを書いた論文

EMPA-REG OUTCOME: The Nephrologist’s Point of View

上記の論文に関わったドイツの腎臓内科医がPoint of Viewとしてまとめた論文です。上の2つの論文を振り返りながら、SGLT-2阻害薬のそれまでの歴史、病態などについてかなり詳細にまとめてあって腎臓内科医必読の論文です。この論文ではHbA1c低下という観点だけをみるとCKD2、CKD3aも効果があるがCKD3bやそれ以下になると効果が薄れる可能性があるとも記載しており、腎臓内科医が普段から診療する患者においてはあまり効果がない可能性が考えられます。

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SGLT-2阻害薬の以外の薬もジャディアンスに負けてませんで!という論文

Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes

今までジャディアンスの結果を示した論文でしたが、この論文は他のSGLT-2阻害薬であるカナグルの結果を示したものです。この論文が出るまでは果たして、SGLT-2阻害薬すべてに同様に効果があるのか、それともジャディアンスのみの効果なのかがかなり注目されていました。PECOは以下の通りです。

 P:糖尿病で心血管イベントのリスクを有する患者(35%は心血管イベントの既往がない)

 E:カングルを使用

 C:プラセボ

 O:心血管死、nofalな脳梗塞、心筋梗塞

メインストリームではジャディアンスと同様の効果が出ています。しかしながら、しっかりと読むと違いも出る結果になっています。まず患者背景はジャディアンスに比べると心血管イベントの既往がない人が3-4割含まれている。結果においては、ジャディアンスで有意差を認めた心血管死はこちらの研究では単独では有意差を認めませんでした。有害事象においてもジャディアンスで認めなかった下肢切断リスクが上昇していました。またこれはあくまで明らかな結果ではないもののカナグルの消化器関連の癌発症の抑制効果があるのではないかと言っている人もいます。これらの違いを薬の特性の違いという人もいれば、患者特性の違いと言っている人もいます。特にSGLT2阻害薬によってSGLT-1が含まれる量が違うという論文を発表した研究者もいます。下記の論文は有名ではありませんが結構面白いです。ここらへんに関しては惑わされずどっしり構えて、知見が集まるのを待つ必要があります。

今後の研究としては腎臓内科としては腎保護作用を調べたCREDENCE試験が2019年頃に終了するため注目されます。

CKD stage 4でのSGLT-2阻害薬の効果を垣間見た論文

Efficacy and safety of empagliflozin added to existing antidiabetes treatment in patients with type 2 diabetes and chronic kidney disease: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.

腎臓内科医として気になるのがCKD stage4の患者には使用できないのかが気になる所である。製薬会社の方でSGLT-2阻害薬を売りたい会社の方に聞くと、CKD stage4でも使用している論文がありますよとか返事を頂くのですが、結論から言うと臨床に当てはめる事が出来る程の研究は未だ発表されていない。

しかしながら上記の論文にはCKDstage4の患者が30人くらいいる。あくまで印象の範疇ではあるが、腎保護作用は多少期待できそうだが低血糖や尿路感染症など副作用がもしかしたら出現するかもしれないという結果だった。あくまで印象の範疇であり、当てにならない内容ではあるが・・・。

個人的に少し注目している論文

Real-world effectiveness and safety of dapagliflozin therapy added to a GLP1 receptor agonist in patients with type 2 diabetes

腎臓内科学会の基調講演でSGLT-2阻害薬にGLP-1製剤を併用すると良いのではないかという趣旨の公演があったので調べてみました。メトホルミンを1500mg以上投与しても血糖コントロールが安定化しない2型糖尿患者に対してGLP-1製剤(ビデュリオン)とSGLT-2阻害薬(フォシーガ)を投与した結果を示した論文です。PECOは以下の通りです。

P: メトホルミンを1500mg以上投与しても血糖コントロールが安定化しない2型糖尿患者(HbA1c8-12%)

E: GLP-1製剤(ビデュリオン)とSGLT-2阻害薬(フォシーが)  28週間投与。

C: GLP-1製剤(ビデュリオン)、SGLT-2阻害薬(フォシーガ)単剤投与

O1:HbA1cの低下

O2:空腹時血糖、食後血糖、体重変化、血圧変化

メカニズムとしてもGLP-1製剤とSGLT-2阻害薬の併用はリーズナブルであり、個人的には注目している論文で一読の価値があると思います。

で、実際SGLT-2阻害薬は腎臓に良いの?

ここからは腎臓内科医によって考え方が分かれると思います。私はこうしています。糖尿病の先生方からツッコミが炸裂する可能性があります。是非ご指南下さい。

腎機能障害が軽度であれば(CKDstage3A程度であれば)メトグルコ、リナグリプチン(DDP-4阻害薬)からスタートさせています。最初の1剤目は肥満患者ではメトグルコに、痩せている患者にはリナグリプチンを投与しています。DDP-4阻害薬はアジア人にエビデンスがあり日本人に適応させ易いためです。リナグリプチンは胆汁排泄型であり腎機能が悪くても使いやすいです。

コントロールがつかなければ、前述した2剤の内使わなかった方を追加して、それでも足りなければ次の一手としてSGLT-2阻害薬、グリニド薬、αGI阻害薬を使用します。つまり私はあくまで三番手の使用としています。メトホルミン、リナグリプチンと一緒に使うことでSGLT-2阻害薬によるグルカゴン分泌上昇の影響を押さえ込むことも出来るためリーズナブルと考えています。(但し多くの添付文章ではeGFR45もしくは60以下に対して使用しないように記載されています。)食後血糖を狙い撃ちする際は、痩せていればグリニド薬、太っていればαGI阻害薬を使用しています。

一方で腎機能障害が中等度であれば(CKDstage3b程度)、今後stage4になる時の内服の調整を見越してリナグリプチンから開始しています。メトホルミンは腎機能障害(eGFR<30)の場合は使用は望ましくないためです。SGLT-2阻害薬もstage3Bの使用に関しては現段階では『グレー』であり、αGI阻害薬、グリニド薬、持続作用型インスリンを使用しています。またDDP-4阻害薬をGLP-1阻害薬に変更してみたりします。

あくまで上記は基本形であり、肥満だったり、高齢だったり、経済状況を見ながら変えています。メトホルミン、GLP-1製剤、αGI阻害薬にもしっかりとして心血管イベント抑制のエビデンスがあり、DDP-4阻害薬、グリニド薬では動脈効果関連のエビデンスがしっかりあります。SGLT-2阻害薬の腎保護作用はかなり気になりますが、GLP-1阻害薬でも腎保護作用は期待は出来ます。(やはりSGLT-2阻害薬の方が良い印象があるが・・・。)

腎臓内科の先生方の中には、体重減少、筋肉量の変化がCreの値に影響を与えたのではないかとおっしゃる先生もいて、現段階ではまだRAS系阻害薬のような立ち位置にはならないと考えております。正直、未熟な私はSGLT-2阻害薬が出た時に結構飛びついた側の人間ですが、蓋を開けて深く掘り上げるとまだまだ研究が足りないのかなとも感じてしまいます。しかしながら、SGLT-2阻害薬が今後、より一層市民権を得るのは間違いないと思います。今後の研究に注目していきたいと思います。

 

Linkに貼っていない参考資料は下記へ

・Exenatide once weekly plus dapagli ozin once daily versus exenatide or dapagli ozin alone in patients with type 2 diabetes inadequately controlled with metformin monotherapy (DURATION-8): a 28 week, multicentre, double-blind, phase 3, randomised controlled trial

・Long-term incidence of microvascular disease after bariatric surgery or usual care in patients with obesity, strati ed by baseline glycaemic status: a post-hoc analysis of participants from the Swedish Obese Subjects study

・GLP-1 receptor agonists and SGLT2 inhibitors: a couple at last?

・Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes

・2 型糖尿病患者におけるリナグリプチン (トラゼンタ®)の腎保護効果の検討

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腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
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  • (2018.11.04)
    ファンデリー様企画の数百人規模のイベント「ミールタイム健康フェスタ」で『生活習慣病の食事療法・運動療法の最新の知見』と題して講演させて頂きました!
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  • (2018.10.10)

    ジャパンヘルスケアベンチャーサミットでCKDオンラインを発表しました!

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  • (2018.09.06)

    週刊東洋経済2018/9/8号で少しお話させて頂きました!

     

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