人工知能で医者はいらなくなるのか3 〜臨床医になってわかった人工知能に出来ない事〜

2017.11.20
人工知能で医者はいらなくなるのか3 〜臨床医になってわかった人工知能に出来ない事〜
人工知能で医者はいらなくなるのか3 〜臨床医になってわかった人工知能に出来ない事〜

腎臓内科医の森 維久郎です。

昨年のちょうどこの時期、特にテレビやインターネット、VCなどが『人工知能!人工知能!』と騒ぎはじめ、世間の人も人工知能に注目しはじめた頃に、昔のブログに以下の2つの記事を書いてなんだかんだ1万人以上に読んで頂いたわけですが、あれから1年経ち専門に進みまた違う目線が生まれました。

Googleで『人工知能、医者』調べると、何故か素人の僕の記事が出るので、将来が心配になりググった医学生や研修医の先生、人工知能を使って仕事をしたい起業家の人達から専門家でもなんでもないのに質問を受ける事が多くなりしました。そういう時は自信に満ち溢れた顔で『わかりません!』といって逃げ回っているわけですが、いろいろな人から意見を求められて気づいたことがありました。

なので二部作で終わりにしようと思っていた人工知能について再び書いてみようと思います。今日は、世間で人工知能でできると思われてる医者の仕事で、実際に臨床やっている人だけがわかる人工知能では出来ないことについて触れたいと思います。

実用化されていく『人工知能』

私自身、人工知能については数冊ぐらい本を読んだ知識があるのと、趣味で人工知能を少しイジってるぐらいの経験しかないのですが、人工知能には大きな期待をよせている医者の一人です。画像認識、検査結果の解析において特定の領域では既に人間の能力を越えていると考えております。僕なんかよりも何十倍も人工知能に詳しい『沖山翔』さんという元救急医の方が先日紹介していた記事なんかは『「胸部レントゲンから肺炎を診断する」作業で、アルゴリズムが人間の放射線科医を上回った』という内容を発表しており、後5年くらいすると人工知能が画像領域実用化される印象はあります。

そんな私としても結論から言うと、人工知能は全然使い物にはなる気配がありません。5年後に医者はいらなくなるという事を言い始める人もいますが、私は到底そうは思えません。その理由として以前に僕の記事では、その理由で『納得感』という所を一つのポイントとして挙げました。当時記事を書いていた私は『納得感』というある種、感覚的、感情的な部分に着目して話を進めました。逆に、医学的な理論的な部分に関しては数十万の論文を人工知能に読み込んだら大半は医者は人工知能に劣ると思っていました。しかし、腎臓内科になって、主治医になって、治療方針を決定するような立場になって、またその考えすら間違っていた事に気付かされました。特に『治療方針の決定』はとてもじゃないけど人工知能には出来ないと考えています。

『診断』は人工知能で付けることが出来る。

ちなみに、医者の仕事の中で『診断』をつけるフェーズは今でも近い将来人工知能が医者を越えると思っています。この前、どこかのお偉い医師会か何かの代表の人が、とある会で、『医者の仕事は、患者さんが診察室に入ってくるその瞬間から表情や歩き方、話し方をみて、それを総合的に評価するんです!そんな事機械が出来るわけないんです!人工知能で医療が出来ると思っている医者は検査結果しかみていない医者です!』とかおっしゃていましたが、表情、歩き方、話し方も定量化してしまえば、画像認識である程度は評価できると思うし、その評価を病歴、検査データーと組み込んで解析すれば人間よりも見落としなく診療できるような気がします。

医者の『診断』はある程度パターン化されています。いつから症状があって、どういう経過をたどって、この症状があって、この症状がなくて、こうすると症状が悪くなって、採血検査、画像検査がどのようなものであるかをみて判断します。実際にそのパターンを打ち込んでアルゴリズムに沿ってネット上で診断をつける試みをしている医者もいます。

『肛門科.jp 専門医による無料診断』

このサイトは良く出来ていて、実際こういう取り組みが増えていくと思います。勿論100%の診断は付けられませんし、最終的には医者が対面で診療する事で診断をつける事になりますが、ある程度の道筋をつける事はできます。(ちなみに、このアルゴリズムは人工知能ですらありません)

『治療方針の決定』は人工知能で出来ない。

一方で『治療方針の決定』というフェーズにおいては、また話が変わってきます。結論から言うと、『治療方針決定』には完全な答えが無いので人工知能が機能しないのです。ポカンとしている読者の顔が見事に浮かぶので一つ例をあげようと思います。

このブログでも記事にしていますが、IgA腎症という病気があります。具体的には下の記事やガイドラインを参照して頂ければ良いのですが、特定の条件を満たす患者さんには治療として『ステロイド療法』+『扁桃摘出』を行います。これを腎臓内科医は『扁摘パルス』と呼んでいます。

『特定の条件を満たすIgA腎症』→『扁摘パルス』という構図が完全に当てはまれば、人工知能でも出来ると思います。しかし、そんな簡単ではありません。ポイントはそもそも『扁桃パルス』は本当に有効か分からないという事です。

『扁桃パルス』が有効だという根拠になっている論文はいくつかありますが、その中で一つ例をあげると2008年の日本人で行われた研究が挙げられます。『扁摘パルス』をした人は『ステロイド療法』だけしかしなかった人に比べて、大体4-5年後の結果が良かったという内容で10年前くらいに出た論文ですが、今でも良く引用されますし、腎臓内科医なら一度は目を通す論文だと思います。

Effect of Tonsillectomy Plus Steroid Pulse Therapy on Clinical Remission of IgA Nephropathy: A Controlled Study

しかしながら、あくまでこの研究で示された『結果が良かった』というのは、実は扁摘パルスによって透析にならなかったとか死亡率が減少したという私達が期待する結果ではなく、あくまで『蛋白尿、血尿』が改善したという結果に過ぎません。腎臓内科医からすると、蛋白尿、血尿が改善しているなら恐らく、腎臓に対しても良い事をしているんだろうと思うわけですが、ステロイドという治療は様々な副作用もあるし、扁桃摘出は手術が必要で2週間くらい入院するので、絶対効果があると言い切りたいのですが現段階で治療効果が完全に明らかなではないのです。これを明らかにしようとするためには、長期間の、より信憑性高い方法を用いる必要がありますがコストや手間、倫理的な観点から様々な壁を超えなければなりません。

一方で日本人の論文でIgA腎症だった人1000人くらいが、30年後どうなったかを調べた研究があります。この研究では、半分に人が30年後に透析になっています。この研究の対象者で『扁摘パルス』をしている人は1割ぐらいでした。この研究でIgA腎症は予後が悪いのではないかという認識をより強く持ち始めました。

Prognosis in IgA Nephropathy: 30-Year Analysis of 1,012 Patients at a Single Center in Japan

IgA腎症は予後が悪い疾患で、何もしないと透析になる可能性が高い。そんな中で、『扁摘パルス』という治療が尿所見を良くするという結果が出ているという事実が出て、多くの腎臓内科医がその効果に期待して、『扁摘パルス』という選択を積極的にとっているのです。『白』か『黒』か全くはっきりしない『グレー』な方針を患者さんと相談して決めているのです。

医療の世界にもガイドラインがあって、IgA腎症にもガイドラインがあります。ガイドラインに尿蛋白が1.0g/日以上、場合によっては0.5g/日以上であればステロイド療法を検討するように記載していますが、例えば今後妊娠の予定があるような若い女性では0.5g/日以下でも時と場合によってはステロイド療法を検討します。ここらへんは本当に答えがありません。

この例のように、臨床をしていると答えが無い『治療方針の決定』を迫られる事が多くあります。過去の研究や論文と目の前の患者さんを照らし合わせて、総合的に考えていきますが最終的には、主治医の考え方や患者さんとの相性で決めていく事が結構あります。答えがない事が多く、また研究や論文が作り出す事実も、非常にフワッとしていて、見方を変えればどんな解釈も出来てしまうため、『揺らぎ』だらけになります。この『揺らぎ』だらけの状態は人工知能が苦手とする所です。また『揺らぎ』に対して数をぶつけて規則性を見出す事も人工知能の能力なのですが、まだまだそれだけのデーターベースを作るには至っていません。先程の『扁摘パルス』も30年後には間違った治療になっている可能性があります。

こういう『グレー』な方針を決定するために必要なのは、患者さんの納得感が大切です。結局最終的には、人間である医者が、人間である患者さんと話をして信頼関係を気付き治療を決めていくしかありません。

人工知能の話になるとすぐ医者はいらなくなるという話題が登りますが、一臨床医からすると、医療の現場目線では人工知能は優秀な秘書のイメージです。現段階の医者の仕事は本当に非効率な事ばかりです。医療界が頑なに新しい技術を拒んだ事に加えて、楽をしてはいけないという雰囲気が追い打ちをかけて生産性の無い事に本当に時間がかかっています。そんな時に救世主として人工知能が登場してほしいと強く願いますし、是非ともベンチャー企業の人にはソリューションを作って欲しいと思います。

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管理人情報

森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
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