それでも「透析をしない」という選択肢はしっかり提示される必要があると思う。 

それでも「透析をしない」という選択肢はしっかり提示される必要があると思う。 
それでも「透析をしない」という選択肢はしっかり提示される必要があると思う。 

透析中止に関して公立福生病院の話が最近話題になっているので、以前作っていた記事を少し加筆して再度リリースしました。結論としては、「透析をしない」という選択肢は提示し続けるべきという内容の記事です。

ちなみに今回の公立福生病院の出来事に関しては、年齢が比較的若かったり・また医師と患者・家族でどのような話合いが行われたが不透明で一般論を当てはめることが難しいです。

また透析をしている患者さんの透析をやめる選択を提示することと、透析がそろそろ必要になりそうな患者さんが「透析をしない」という選択を提示をすることは似ているようで似て非なるものであり、今回の記事は主に後者の選択について重点的に触れるためその点はご了承ください。

この記事は今回の出来事に関しての意見を述べるものではなく、「透析が必要なのに敢えて透析をしない選択」というものが現場や医学の世界でどのように捉えられているのかという事について触れ、最終的に「透析をしない」という選択肢を何故テーブルに上げ続ける必要があると考えているか、そしてその為の課題について触れます。

公正福正病院の出来事の後、一臨床医としては、正直「透析をしない」という選択を提示しづらくなりました。私見では、今回の出来事は「透析をしない」という選択をたどり着くまでのプロセスについて議論を重ねていくべきなのに、印象やイメージなどエモーショナルな要素が先行して「透析をしない」選択そのものについて安直に否定的に語られているような気がしています。この記事では淡々と「透析をしない」選択について書こうと思います。

それでは行きましょう。

透析医療における新たな問題とは?

腎臓という臓器はざっくり尿を作る臓器で、身体の不要な物質を外に出す働きがあります。腎臓が悪くなると、身体に不要な物質が溜まり浮腫み、食欲低下、意識障害になり、最終的に死に至ります。この時に必要になるのが、透析(もしくは移植)です。

透析をすることで、身体の不要な水分や毒素を除去することで症状や死亡を先延ばしにする事ができます。結果、元々元気だった方や若い人は日常生活・仕事をすることが出来るようになります。透析という医療は、ここ数年非難の対象に晒されがちですが、亡くなってしまうはずだった人が普通に日常生活を送れるようになるという意味では透析医療そのものは素晴らしい医療だと思っています。一方で医療費の問題や、死生観の観点から、もっと考え方を整備していくべきことが一杯ある領域だと思っています。

日本の透析医療は世界有数のレベルの高さだと言われていますが、そんな日本の透析医療で問題になっているが、透析患者の高齢化です。ここ数十年で透析患者さんは高齢化の一途を辿っています。私自身も85歳以上で透析導入をした担当患者さんも普通にいらっしゃいます。(ちなみに非医療者からすると、意外だとは思いますが、近年の高齢者はめちゃくちゃ元気です。一例ではありますが、X年前に透析導入をしたYさんは85歳を越えても信じられないくらい元気な方で、はしごを作って屋上に登り雨漏りの修理をしていました。)

元気な高齢者であれば良いのですが、身体機能や認知機能が衰えていたり、腎臓以外にも様々な病気があって透析をする事が患者さん本人にとって苦痛を与える可能性がある場合など、透析をすること自体のメリット・デメリットを検討すべきケースが増えてきました。

また医学的背景だけでなく、本人・家族が透析を望まないケースもあります。透析が必要になる前から本人の強い希望で「私は天寿を全うしたから透析は断固としてしないでくれ。」という明確な意思表示があるケースや、病気と戦う本人の姿をみて「これ以上は治療させたくないから透析はしないで欲しい」と言われるケースもあります。

このようなケースの場合「透析をするのか」「透析をしないのか」という選択を医療者と患者・家族と協議していきます。協議の結果、医療者・患者・家族が「透析をしない」という選択をとることがあります。

医学的観点からみる「透析をしない」選択について

現在、世界中で高齢者で「透析をした人」と「透析をしなかった人」でどういう違いがあったかという研究が発表されています。中には「75歳以上の高齢腎不全患者では、透析治療をしない場合と透析治療をする場合で生命予後の差はないかもしれない。」という研究結果も出ています。(Survival of elderly patients with stage 5 CKD: Comparison of conservative management and renal replacement therapy.

また「透析をした人」と「透析をしなかった人」を比較すると「透析しなかった人」の方が亡くなるのは早かったけれども、QOLは透析をしている人と同じレベルであり、生活の満足度は「透析をしなかった」人の方が高い可能性があるという結果もあります。(Quality of life and survival in patients with advanced kidney failure managed conservatively or by dialysis.

また考え方として、「透析をしない」選択をとると週3日病院に行く必要がなくて自宅にいる時間を作ることが出来るので、単純な生存した日数だけでなく実際の患者さんの人生をおける日数(病院にいない日数)で検討するとあまり変わらないかもしれないという考え方もあります。(Is Maximum Conservative Management an Equivalent Treatment Option to Dialysis for Elderly Patients with Significant Comorbid Disease?

但し、こういう研究結果を解釈する場合、バイアスといって透析治療をしなかった人達が比較的生命力がありそうな人達が多かった可能性があることなど吟味が必要です。また患者さんが透析をして何を求めるのか?という事をしっかり吟味して、これらの研究結果を反映させる必要があります。

先程挙げた報告は氷山の一角で、やはり透析をした方が生命予後は良いという報告もあるし、高齢者なら腹膜透析がQOLが高いという報告もあります。

これらの報告から「透析をする」という選択、「透析をしない」という選択を比べて一般的にどちらが正しいと決めるのではなく、これらの結果を材料にして考察して、眼の前の患者さんにどう情報提供してどう当てはめていくのかという事を考えていく必要があります。

ただし、患者側、医療側に多種多様な考え方があり、一つ一つ個別化するという事を言うのは簡単ですが、現場で実際行うには時間的・資金的リソースの観点から非現実的であり、多種多様だからこそ緩やかな標準化が必要という考え方があり、私も非常に同感です。(Mortality in the Elderly on Dialysis: Is This the Right Debate?)ここらへんは最後にも触れようと思います。

意思決定のために必要な「療法選択外来」とは?

透析をする・しないという本人と家族の意思決定が大事なのですが、透析をするということがどういう事なのか、透析をしなかった場合はどうなるのかという事は一般人の患者さんにはイメージしづらいと思います。そういう方のために行われるのが「療法選択外来(りょうほうせんたくがいらい)」です。

そもそも、腎臓が悪くなった時の選択には4種類あります。「血液透析(けつえきとうせき)」、「腹膜透析(ふくまくとうせき)」、「腎移植(じんいしょく)」、「透析しないという選択」です。

それぞれの治療にはメリット・デメリットがあります。詳しくは別に記事を書いているのでそちらを参照頂きたいのですが、年齢、生活環境、人生観、透析をして何をしたいのかなどを考慮して、患者・家族のサポートします。(透析療法・腎移植療法についてまとめました。

療法選択外来を受診する時期として、ガイドラインには以下のように記載されています。

『CKD症例に対して,CKDステージG4(GFR 15 ~ 30 mL / 分 / 1.73 m2)に至った時点で,公平かつ適切な透析療法および腎移植に関する準備のための情報提供を本人および家族に行うことは,腎代替療法開始後の生命予後を改善するのでこれを推奨する。』(CKDステージG3b-5患者のための腎障害進展予防とスムーズな腎代替療法への移行に向けた診療ガイドライン2015)

療法選択外来では30分〜1時間ほど、模型やビデオを使って実際の透析をイメージして頂くような時間にしてもらい、患者さんのライフスタイルなども伺って情報を共有して、意思決定の支援を行います。可能であれば、家族も同席して話を進めていくのが望ましいかと思います。

「透析をする」、「透析をしない」という意思決定の変更に関して

1度「透析をするのか」「透析をしないのか」という選択をした後も、変更することが出来ます。NDTという腎臓の世界では有名な科学誌より発表されたフランスでの研究結果では、以下のように1度行った意思決定と、約3年後でどのように変わったのかを調べております。細かい部分は省略しますが、とりあえず一定数の患者さんは一度行った意思決定を変更しています。

この研究結果のポイントは「最初に透析をしないと決めていたのにいざ透析をすると決めた場合は透析導入時、透析導入後のリスクが高い可能性がある」という事です。透析を始めるには準備が必要です。血液透析であれば透析をするための特別な血管(シャントと言います。)を作る必要があります。シャント造設術という手術が必要で、その後数週間から数カ月待ってから透析を始めるのが一般的です。

このシャントを作らずに放置して腎臓病が進行して症状が出現した場合、緊急に透析を始めなければならない時があります。緊急透析の場合は首にある血管にカテーテルという管を入れる必要があります。その処置は危険が伴うためなるべくしたくないのですが、止む終えない場合せざるを得ません。

最初に「透析をしない」と決めていたのに、いざ症状が出てくると「やっぱり透析したい」と意思が変わる事は現場としては比較的よくある話です。そして「しない」→「する」という意思決定の変更は時にはリスクを伴うので、「透析しない」という意思決定を行う際は慎重に医師・患者本人だけではなく医師・看護師・患者・患者の家族全員で協議をする必要があります。

 

「透析をやめる」という選択について

冒頭でも触れましたが、「透析を行なっていたが、透析を辞める」と「透析が必要になる状況に前に事前に方針を決める」という話は似て非なるものです。

透析は人によっては過酷に感じることがあり「もう透析はしたくない」と本人が考えるケースもあります。

CJASNという腎臓の世界では有名な科学誌より発表されたアメリカの報告では、透析を辞めたケースの6割が患者本人の意思、3割が患者の家族の意思で透析を辞めており、5割が医学的な合併症、2割がフレイル(虚弱)が原因でした。(End of Life, Withdrawal, and Palliative Care Utilization among Patients Receiving Maintenance Hemodialysis Therapy.)一方で、透析をしない選択をした後の緩和ケアを適切に受けている患者さんは極僅かだったという問題提議もされています。

透析患者の身体機能は健常人と比較して約50%まで低下すると言われています。結果、8人に1人程が、1日の内半分以上ベット上で暮らしていると言われています。また身体的な側面だけでなく、社会的・精神的な衰えが生じやすく透析中も合併症が続き安全に透析が行えなくなり「もう透析はしたくない」と患者本人が考えるケースがあります。

この「透析をやめる」という選択は、「透析見合わせ」として議論されています。透析学会から「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」というガイドラインが出されています。

維持血液透析を安全に施行することが困難な場合や患者の全身状況が極めて不良であり、患者自身の意思表示、家族の意思表示がある場合は正しいプロセスのもと「透析見合わせ」を行うことがあります。

「透析をしない」という選択肢を提示すら出来ないことを危惧しています。

こっからは私見であり、私が正しいとは思っていません。意見を聞きたいと思っています。

「透析をしないという選択肢を提示すらできない」ようになるのを非常に恐れています。患者さんによっては「透析をしない」という選択が患者さんの医学的な側面や患者さんの人生観、死生観の側面から望ましいことがあり、選択肢としては必ず提示すべきだと思います。

一方で「透析をしない」という選択に関しては、まだまだ成熟していない部分があり、課題や問題もあります。

例えば、「透析をしない」という選択をとった後の終末期医療体制は日本だけでなく海外でも整備していく必要があると問題提議されています。

また「透析をする」にしろ「透析をしない」にしろ、最終的には本人、家族、医療者による議論をして、本人・家族・医療者が納得していることが大切です。

「透析をしない」選択を検討するに際して、現段階では選択基準・情報提供するべき内容・情報提供の仕方などを定めたフレームみたいなものはなく現場の医療者に委ねられています。現場の医療者が一つ一つ意思決定のプロセスを構築していくべきだと思うのですが、多種多様だからこそ緩やかな標準化されたフレームが合った方が医療者、患者、家族、そして社会的にも望ましいと思います。

話は替わりますが、イギリスにNHS Choice frameworkというフレームワークがあります。このフレームワークは患者さんが医療における選択をする際に必要な情報の入手の仕方から選択肢が提示されない時にどうすれば良いかなどが書かれています。どんな医者にかかれば良いか、どんな医療機関を受診すれば良いかなど細かく情報提供しています。(NHS Choice Framework

今回の透析の話と前提は異なりますが、患者さんが主体的に情報を集めたり、医療側が選択肢を提示をする仕組みとして緩やかなフレームを作るという意味で画期的であり学ぶことが多いのではないかと思います。

 

 

長くはなりましたが、もう一度まとめると以下のようになります。

1:日本の透析医療は世界トップレベルで優れているが、高齢化に伴い「透析をしない」という選択肢も検討出来るシチュエーションが増えてきた。

2:世界中で「透析しない」という選択肢について研究されており、まだコンセンサスは得られていないが見方によって「透析をしない」という選択肢が患者にとって望ましいケースがあるかもしれない。

3:一方で「透析をしない」という選択やその後緩和ケアについて議論が不足しており、整備が求められる。

4:「透析しない」という患者主体の意思決定のために、医療者・患者・家族における「対話」が必要。ただしこれを全て現場に委ねるのはかなり無理があり、対話のプロセスの整備が必要。私見では、これをフレームワーク化することが良いのではないか。

5:少なくとも筆者は「透析しない」という選択肢がテーブルに上がらなくなるのは大きな問題なのではないかと考えている。

 

少し「透析をしない」という選択自体に対して雑な報道がされているようで気になります。

医療者や本人・家族が時間をかけて色々協議して、「透析をしない」という選択をとって安らかに暮らしていたり、安らかにお看取りになった患者さんや家族は日本中に一杯いて、彼らが「透析をしない」という選択そのものについて安直にネガティブに書かれた記事を読んでどのような気持ちになるかを想像するべきです。

プレジデントからはこんな記事が出ていました。(医師の判断で透析患者を殺してもいいのか))この記事では、公立福生病院で行われた意思決定のプロセスについて倫理委員会に提出が無かったという部分だけ切り取って意思決定のプロセスが成されていなかったと判断して、「殺人」という表現を使って説明しています。(「透析をしない」という選択をするに際してすべて倫理委員会に通すことが現場として実現可能なのか私は理解が出来ません。)

またこの記事を読んだ「透析をしない」という選択をした患者さんの家族の中には「殺人」という言葉で「自分が殺した」と言われているように感じてしまう人もいるのではないのでしょうか。(そういう配慮はあったのでしょうかね?)

記事には移植について触れられていますが、「透析をしない」という選択を検討する患者さんにどれだけ移植という選択を検討出来るのでしょうか。移植には亡くなった方の「献腎移植(けんじんいしょく)と三親等以内の親族から腎臓をもらう「生体腎移植(せいたいじんいしょく)」があります。

献腎移植は15年待ちと言われていますし、生体腎移植は渡した方は腎臓が2つから1つになってしまいます。また「透析をしない」という選択、「透析をやめる」という選択をする患者は一般的に超高齢だったり、医学的に合併症があったりする方が多くて、とても移植のために手術に耐えれるだけの体力が残っていない可能性が高いのではないかと思います。

公立福生病院の出来事に関して良い悪いという話をしているわけではなく、まだ開示されている情報が少ないのにも関わらず、事実を切り取りして安直に「透析をしない」という選択そのものを否定して、『殺人』という言葉を使って表現しているのは流石にまずいのではないかと私は考えます。

このように少し「透析をしない」という選択に関して雑な記事が多かったので、今回記事にしてみました。

勿論この記事が決して「透析をしない」という選択を誘導したり勧めたりするものではなく、選択肢の1つとしてしっかりテーブルに上げていく必要があると主張するものであることが伝わることを心から願っています。

腎臓内科.comでは主に「透析にならない腎臓医療」について1年半以上情報提供し続けており、その中で透析にならないことを主軸に置きながらも、透析が必要になってしまった時についてもしっかり考えて行く必要があることを触れました。(透析療法・腎移植療法についてまとめました。腎臓病が進行したら必ず知ってほしいこと。

「透析をしない」という選択について一歩下がってバランスの取れた情報提供になっていることを心から願います。

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森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
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