腎臓とタバコ・電子タバコ・無煙タバコについて

腎臓内科の森です。腎臓病の治療で禁煙は重要な治療戦略の一つです。腎臓病は何かと食事制限を含めた生活習慣の規制が厳しく患者さんも大変であり、「あれもだめ、これもだめ」と言ってしまいがちなので、個人的にはなるべく重要なものを緩急をつけて説明するようにしていきますが、タバコに関しては、絶対禁煙してもらっています。

今日はタバコについてまず説明して、電子タバコ・無煙タバコ、禁煙外来について書こうと思います。

まずは従来のタバコと腎臓について

タバコは癌、心臓、脳の病気の発症の原因となることは知られています。腎臓病の患者さんでも血管を障害して動脈硬化を進めたり、その他様々なメカニズムで心臓・脳・腎臓を障害することが分かっています。タバコについては、皆さんが体に良くないことを知っているので、この項ではどれほどタバコが身体に良くないかという科学的根拠を書きます。

2015年にAJKDという腎臓領域で有名な科学誌より発表された報告では、「現在もタバコを吸っている人」は「過去にタバコを吸っていて禁煙した人」及び「タバコを吸ったことがない人」に比べて明らかに死亡率、心血管イベント(心筋梗塞など)になるリスクが上がることが分かっています。(Healthy lifestyle and risk of kidney disease progression, atherosclerotic events, and death in CKD: findings from the Chronic Renal Insufficiency Cohort Study.)

また、日本人の研究でKidney Internationalという腎臓領域で有名な科学誌より発表された報告では、腎臓病でタバコを吸っていると死亡率、心血管イベントのリスクは格段に上がると報告されている。(Smoking increases the risk of all-cause and cardiovascular mortality in patients with chronic kidney disease)

その他の報告で例えば先程AJKDからの報告では「タバコを吸っている人」は「吸っていない人」に比べて、腎臓病が進行して透析が必要になる可能性が1.5-2倍程まで上昇して20本以上吸っていると更に3-4倍程度まで上昇すると報告されています。(Smoking Is a Risk Factor for the Progression of Idiopathic Membranous Nephropathy)

また昔吸っていた場合、腎臓との兼ね合いはどうかという所にはまだ答えが出ていないのですが、報告により過去の喫煙はあまり関係なかったという報告もあれば、女性は関係あるが、男性は関係がなかったという報告もあります。また、本数が多ければ過去の喫煙が腎臓の予後に影響するという報告もあります。

腎臓の話とは異なりますが、慢性心不全の患者で「タバコを辞めた人」と、「タバコを辞めなかった人」では30-40%程死亡率が異なるという報告もあり、もう吸っちゃったから手遅れだしいいやという話にはなりません。

電子タバコ・無煙タバコなど新しいタバコについて

さて、タバコの話になると必ず出てくるのが、電子タバコの話なのでここにも触れたいと思います。タバコがどうしても辞められない人のためにタバコの替わりとして注目されたのがこの電子タバコです。禁煙外来をすると必ず「電子タバコだったら良いですか?」って聞かれます。

端的に答えを申し上げると「電子タバコが腎臓に悪いかどうかは完全には明らかになっていないが、近年少しずつ電子タバコが腎臓に悪いという雰囲気を出した報告が出てきているので完全禁煙を勧めます。」と伝えています。

電子タバコ・無煙タバコとは?

まず電子タバコとは?ということについて触れます。私もタバコを吸わないのでこの記事を書くまでいまいちよく分からなかったのですが、日本禁煙学会曰く、電子タバコというのは「いわゆる新しいタバコ」の1種類だそうです。ここらへんの言葉の定義はちょっとよく分からないのと、人によって言い方が異なっている気がして困るのですが、呼吸器学会から報告では新しいタバコを以下のように分けていますので引用します。(非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解

1. 電子タバコ E-cigarettes

a). 液体を加熱してエアロゾルを発生させて吸引するタイプ

b). 液体には、ニコチンを含むものと含まないものの 2 種類がある

ニコチンを含むもの:electronic nicotine delivery systems (ENDS)

ニコチンを含まないもの:electronic non-nicotine delivery systems (ENNDS)

注)海外ではニコチン入りリキッドが販売されている(ENDS)。一方、日本では、医薬品医療機器法(旧 薬事法)による規制により、ニコチン入りリキッドは販売されていない。

2.非燃焼・加熱式タバコ Heat-not-burn tobacco

a). 葉タバコを直接加熱し、ニコチンを含むエアロゾル吸引するタイプ(商品名 iQOS, glo)

b). 低温で霧化する有機溶剤からエアロゾルを発生させた後、タバコ粉末を通過させて、タ バコ成分を吸引するタイプで、電子タバコに類似した仕組み(商品名 Ploom TECH)

自分の周りにアイコスを吸っている人が多いのでびっくりしたのが、アイコスって、厳密には電子タバコじゃないんですね。

電子タバコ・無煙タバコは健康に良いのか?

で、先程の呼吸器学会の非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解の内容を読むと色々書いてあります。新しいタバコのうたい文句はざっくり「タバコで有害とされていたタールという物質が無いので本人・周囲の人の健康的な被害は少ないですよ〜」という所に集約されるのですが、

今回の見解では「タール以外の様々な物質が検出されており、喫煙・受動喫煙のリスクは依然しっかりありますよ!」というニュアンスの報告がされています。呼吸器学会だけでなく禁煙学会でも同じようなニュアンスの声明が出ています。詳しくはこちらのリンクを貼っておきます。緊急警告!というゴツいページもあります。(【加熱式電子タバコ】緊急警告!)(いわゆる「新しいタバコ」に対する日本禁煙学会の見解

他にもこんな記事がかいてあります。

「加熱式電子タバコ」は、普通のタバコと同様に危険です。受動喫煙で危害を与えることも同様で、認めるわけにはいきません。

加熱式タバコの血管内皮機能への影響は従来のタバコと同程度に危険です。

電子タバコ使用者は、喫煙者に7倍なりやすい。(Am J Medicine, 2017 11)

少なくとも、色々な意見がありまだまだ吟味していく余地がありますが、取り敢えず医学の世界では新しいタバコについてかなり否定的な見解に傾いているようです。これが明らかになっていくのは、新しいタバコを吸っている人が10年、20年経ってどうなったかを調べる必要があり、まだまだ時間がかかるので予想していくしか方法はありません。

電子タバコ・無煙タバコは腎臓に対して良くないのか?

次に腎臓についてなのですが、これも端的に申し上げるとよく分かっていません。同様に腎臓病の患者さんで新しいタバコを吸っている人が10年、20年経ってどのくらいの割合で透析・移植が必要になったのかを調べる必要があります。(実際に研究をやると分かるのですが、この調べる作業が以外に膨大でお金はかかるは、時間はかかるはで中々サクッと科学的根拠を出すのは難しいんです。)

なので、明らかではない中である程度予想をつけていく必要があります。

例えば、日本禁煙学会にも連載されている報告では、新しいタバコは従来のタバコと同様に動脈硬化を進めることを報告しています。(非燃焼加熱式タバコのエアロゾル吸入によって 血管内皮機能が傷害される)腎臓という臓器は血管の塊であり、動脈硬化の影響を非常に受けます。動脈硬化性の腎硬化症(じんこうかしょう)は透析になる原因疾患第3位にランクインしています。

またインドで行われた研究でもタバコを吸わない人達と無煙タバコを吸っている人達で比較して腎臓への影響を調べており、無煙タバコの腎臓への影響を指摘しています。(Chronic smokeless tobacco consumption contributes to the development of renal diseases in the human male volunteers)

これらの結果をうけて、「新しいタバコは腎臓に良くない!」というのは早計です。こういう研究結果が一つ一つ積み上がっていき、コンセンサスが得られていきます。コンセンサスを得るには、質も量も全く足りないのです。

患者さんが電子タバコ・無煙タバコにしたいと言ったら自分ならどうするか?

(2019年に新しいタバコの健康被害が報告されたので、当院では全面禁煙にしました。)

患者さんが電子タバコにしたいと言ったらなんて答えるかなのですが、医学的な正解は「腎臓を悪くする可能性があるなら電子タバコもだめ!!!」と伝えることだと思うし、自分が主治医でもそうするべきだと思っています。一方で医者の「ゼロリスク至情主義」のせいで患者さんの意欲を削ぎ落とす可能性があり、そこは気をつけた方が良いのではないかと思っています。

こっから私見になりますが、タバコを吸っている人は基本、タバコを吸っていることを良くないと自覚しています。将来の自分にも自分の家族にも迷惑をかけている事なんてみんな知っています。でも辞められないのです。それがタバコの怖さであり、ニコチンの恐ろしさなのです。患者さんが主治医に「電子タバコ・無煙タバコ」について質問するということは、「禁煙したい」、「将来の自分が健康になりたい」、「家族に迷惑をかけたくない」という気持ちがあり、それを行動に移したいという気持ちの現れなのではないかと思う訳です。

それを断固として「電子タバコ・無煙タバコも良くない!」と頭ごなしに否定出来る程の科学的根拠がまだ新しいタバコには無いのです。最終的に、新しいタバコについて否定的な意見を出した上で、それでも禁煙へのステップアップとして患者さんが切り替えたいと言ってきたら検討を少しするぐらいの幅をもって診察しています。ここらへんはかなり私見だし、他の先生から怒られるかもしれませんが、なんとなく医者の「ゼロリスク至情主義」に嫌気が指している患者さんが一杯いるのも事実で、最初は許容して徐々に完全禁煙に持っていこうとするケースもあるという話です。