医療情報を発信する事について思う事① メディアなどの情報発信は本当に医療を良くしているのか? 上毛新聞の10/30朝刊とネット記事で取り上げてもらった事を詳しく書きました。

2018.10.30
医療情報を発信する事について思う事① メディアなどの情報発信は本当に医療を良くしているのか? 上毛新聞の10/30朝刊とネット記事で取り上げてもらった事を詳しく書きました。
医療情報を発信する事について思う事① メディアなどの情報発信は本当に医療を良くしているのか? 上毛新聞の10/30朝刊とネット記事で取り上げてもらった事を詳しく書きました。

腎臓内科の森 維久郎です。上毛新聞の朝刊とネット記事のお茶の水循環器科でデジタルハリウッド大学教授の五十嵐先生の記事に「腎臓内科.com」の事を引用して頂きました。

『医療情報 事後対応と一緒に発信』

この記事でも触れて頂いているように、Webでの医療情報の発信は、対面の診察でセットを行うべきだと考えています。「腎臓内科.com」でも書いた記事に対する問い合わせについて、毎月第1土曜日(もしくは第2土曜日)に千代田区の医療機関で「腎臓内科.com外来」を設けて診察をしております。

「腎臓内科.com」では、事後対応を重要視していますが、その背景には最近のメディアの医療情報発信に問題意識があるからです。その理由について今日は書こうと思います。(医療者の情報発信について定期的に連載していきます。)

医療情報は既に飽和している。

昔は、情報を発信するのはテレビ・新聞・本・ラジオぐらいでした。それがWebの誕生で多くのメディアが発信するようになり多くのメディアが医療情報を発信するようになりました。すると競争が激化して、「正しい事」だけでなく、「面白い事・興味を引く事」も求められるようになりました。次第にその傾向が顕著になり「正しい事」よりも「面白い事・興味を引く事」を優先するようになり、ここ数年ではテレビや新聞ですら、新しい用語を作って不安を煽ったり、医学的な重要性が低い事象を『実は〇〇なんです。』という表現を使いあたかも『最も重要な事』に魅せるようになりました。

私がこの「腎臓内科.com」を運営して、色んな問い合わせを受け付けていますが、「◯◯について本当はどうなんですか?」という質問が一杯来ています。外来でも同様であり、患者さんは「情報が多すぎて迷っている状況」です。

本当に必要な情報は少ない。

実は、医学的に本当に重要な事は限られており意外とシンプルです。例えば、食事の医療情報に関しては、津川友介先生の著書の「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」を引用すると大まかに5つに分ける事が出来ます。

A:明らかに健康に良い食事

B:もしかしたら健康に良い食事

C:何も報告がない食事

D:もしかしたら健康に悪い食事

E:明らかに健康に悪い食事

この中で本当に大切なのは、AとEです。AとEは「過去数十年の研究結果の蓄積から、健康に良い悪いが分かっている食品」と考える事が出来ます。例えば、塩分摂取やポテトチップスなどは過剰に取る事は望ましくありません。一方でオリーブやナッツ、小魚、野菜などは採った方が良いとされています。

「塩分は良くない」という番組を作っても当たり前過ぎて視聴者の興味を引く事が出来ません。(どちらかという「塩分摂取はとっても問題ない」という番組を作った方が視聴者の興味を引く事ができ、視聴率・ページビューは上がるはずです。)

一方で、B・C・Dは実臨床の場であまり重要じゃない事が多いです。「過去に調べた研究を2個ぐらいあるけど、信憑性も乏しいし、まだまだ臨床に反映出来ない。」みたい情報がB・C・Dです。チョコレートとか豆乳とかキムチなどがこれらに当たります。こういう類の情報は、メディアとしては好都合です。

「最新の研究では、実はキムチがガンを抑制するかもしれない!!」という論調で番組を勧めると意外性があって面白くなります。(結果、翌日日本中店頭からキムチが消えて、日本中の医師が外来でキムチの事を効かれて、一定数の患者がキムチの食べ過ぎで塩分摂取過多になり血圧が上がります。)

大事な事なので太字で書きますが『外来の戦いは、限られた時間に本当に必要な情報をしっかり伝える事。』です。血圧を下げるためには薬だけでなく減塩・減量・運動・節酒などの至極当たり前の生活習慣を修正する必要がありますが時間が圧倒的に足りません。ライズアップが減量のために食事指導をマメかつしっかり行うのに比べて、医者は減塩も運動も節酒の事をしっかり伝えなくちゃならないのです。現状、例えば、2010年で高血圧と診断され薬を飲んでいる患者さんで実際、血圧を目標値まで下げれている患者さんは30%程度しかいません。(悲しい・・・)

外来の時間が5分だと仮定して、下手にテレビでキムチ特集の番組をみて、よく分からない情報を手にしてくると、その情報について説明するのに数分かかってしまいます。もう外来に来る前の患者さんはキムチの事で頭が一杯です。結局、キムチの話で数ヶ月に1度のその人の外来が終わってしまいます。(あまり重要ではないにも関わらず。)キムチ特集の次の日は、キムチの話ばっかりして外来が終わってしまうなんてこと結構あります・・・。(盛り過ぎでしょと思われる方も多いのですが、実際外来を見学されるとびっくりされると思います。)

高齢者の認知機能低下に配慮していない。

こんな事を言うと、少し怒られるかもしれませんが高齢者への情報提供には少し配慮が要ります。これは現場の医療者なら分かるのですが『端的に』『わかりやすく』伝える必要があります。

テレビ・新聞を見る世代は明らかに高齢者の方が多いです。ましてや健康番組の視聴者は高齢者が多く割合を占めます。まず前提として、日本の65歳以上の約15%が認知症であり、約15%が軽度認知障害という認知症予備軍と考えられています。合計すると約30%です。健康番組をみている高齢者も同様の割合で認知機能障害がある可能性があります。

また過去の研究からは、高齢者が医療情報に対して、それぞれのリスク・ベネフィットに関する膨大な情報を自ら系統立てて整理する事が難しい事を分かっています。(J Gen Intern Med.2006 Aug;21(8):878-83.

また高齢者の意思決定は若年者の半分程度が望ましいとされており、なるべく手にする情報は必要最低限にする事が望ましいと考えられます。(参考:Psychol Aging. 2008 Sep;23(3):671-5. doi: 10.1037/a0012772.

更に認知機能が低下していると、理論よりも直感的かつ感情的に意思決定をする傾向があると考えられます。(参考:Behav Brain Sci. 2000 Oct;23(5):645-65; discussion 665-726.)

なので現場では、高齢者に対して情報提供する時は、医療者は必要最低限に本当に大事な事を伝えます。また一つの情報提供であっても、患者さんによっては今までの経験などから直感的に偏った解釈をされる方も一定数います。

よく「マスアプローチ(ポピュレーションアプローチ)」という言葉を耳にします。公衆衛生的観点などから健康を促進するために社会全体に普及させるための情報発信のことです。対して、特定の疾患を抱える患者さんに向けた情報発信を「ハイリスクアプローチ」と言います。「ハイリスクアプローチ」は、届く情報が患者さんの病態に影響するため、情報提供は慎重に行うべきであり、事後対応が必要と考えられます。一方で、「マスアプローチ(ポピュレーションアプローチ)」は比較的健康な人に届ける情報であり、事後対応の必要性は相対的に少ないと考えられてきました。

しかし、先程触れたように、60歳以上の認知機能障害の患者が30%以上いて、30歳以上の高血圧が男性で60%以上、女性で45%以上、慢性腎臓病が国民全体の8人に1人の少子高齢化社会の日本に、「マスアプローチ(ポピュレーションアプローチ)」は当てはまるのでしょうか?テレビや新聞の向こう側にいる人達が「ハイリスク」である可能性は想像を超えるのではないかと思います。

私はこの「マスアプローチ(ポピュレーションアプローチ)」という言葉がある種の免罪符のようになっている気がしています。

事後対応の無い情報発信が現場の負担になっている?

テレビなど医療情報発信で生じた混乱を処理しているのは、情報発信者本人ではなく前述した通り現場の医療者です。自分が起こした問題は自分で解決するべきです。こんな事を言うと、「情報発信は医療者しか出来なくなる!権力の乱用だ!」と憤慨される事も多いのですが、事実医療現場で混乱が起きているのは事実です。海外では医療メディアが病院を運営して生じた事例は受診に繋げる取り組みもあるようです。(←どなたか詳しい方教えて下さい!)

ただし個人的には、テレビなどのメディアの情報発信は種類によっては非常に社会に良い循環を生む事もあると思っています。医療者からみても『明らかに健康に良い事』、『明らかに健康に悪い事』(前述のAとE)で、現場でコンセンサスが得られており対応可能な情報を煽る事なく提供出来れば、メディアによる情報提供が有効です。(批判ばっかりしていましたが、やっぱりメディアの影響力は凄いんです。)

また難病の患者会についての特集は、今まで孤独と戦っていた患者さんに悩みを共有する場を提供します。

総じて、他者に事後対応を任せる場合も『広げた風呂敷が、しっかり畳めるような形で広げられた情報』であれば問題ないと思います。(というかこういう類の情報発信は現場の医療を良くします。)逆に伝えるだけ伝えて、放り投げるような情報提供は非常に問題であり医療者全体で声を挙げていくべきだと思っています。

11月10日に勉強会やります!

さて長くなりました。(またやってしまった。)医療情報発信については、今後も連載していこうと思います。自分としてもまだまだ深めていく必要がありますし、今後とも勉強を重ねていきます。最後に告知ですが、11月10日に医師による発信を切り開いた「中山裕次郎(なかやまゆうじろう)先生」と腎臓Youtuber「ドクターおかめ先生」をお招きして勉強会をします。中山先生もドクターおかめ先生も僕と全く違う考え方ですが、共通しているのは「現場からの情報発信」に価値を感じて、その量と質を増やしたと思っている事です。興味がある方は是非ご参加下さい!

「現場の医療者による医療情報発信の勉強会 第2弾」

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管理人情報

森維久郎・写真
腎臓内科医
森 維久郎(もり いくろう)
『防げる透析を少しでも減らす』を理念に腎臓内科医をしています。
腎疾患をなるべく早く見つけて、しっかり介入するには、診察以外での情報提供が必要だと感じて『腎臓内科.com』を立ち上げました。
管理人近況
  • (2018.11.04)
    ファンデリー様企画の数百人規模のイベント「ミールタイム健康フェスタ」で『生活習慣病の食事療法・運動療法の最新の知見』と題して講演させて頂きました!
  • (2018.10.27)

    開催内容はこちら!(https://xn--v6q559gj6ehpa.com/archives/1206

  • (2018.10.10)

    ジャパンヘルスケアベンチャーサミットでCKDオンラインを発表しました!

  • (2018.09.21)

    日経メディカル様に取り上げて頂きました!詳しくはこちらへ!

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  • (2018.09.06)

    週刊東洋経済2018/9/8号で少しお話させて頂きました!

     

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